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ローマを舞台に、地上げ屋に狙われる中華料理店を守る為、香港の田舎から渡欧した青年ロンが激しい闘いを繰り広げる功夫アクション映画。
ぼく、ジャッキー・チェン世代。ブルース・リーの映画をマトモに観るのは今回が初めて。
「ジークンドーの創始者」「総合格闘技の父」という肩書きから、ブルース・リーの作品はおふざけ無しの本格派功夫アクションだと思っていたのだが、いやこれコメディじゃん!!
ジャッキーが主演でもなんら違和感の無い、滅茶苦茶観やすいコメディアクション映画。主人公の性格やストーリーも実に少年漫画的で、鑑賞前に抱いていたとっつき難いイメージは完全に払拭された。そりゃ人気出る筈だわ。シンプルに面白いもん!😆
もう一つ、実際に鑑賞してみて意外だった事。ブルース・リーって演技がめっちゃ上手い!!
冒頭、ローマの国際空港に降り立ったロン。彼の顔面のドアップから始まる一連のシークエンスには、異国にやって来た田舎っぺの困惑がありありと描き出されている。
この時のリーの演技の巧みさは特筆に値する。ローマに唐装という、水と油もかくやと言う違和感の只中にいる様を、セリフを用いずに動きと表情だけで表現。しかもそれが一級品のサイレント異邦人コメディとして機能している。彼の喜劇役者としての側面はあまり伝わっていないが、それが勿体無いと感じるほどの名演技である。
知ったかぶりのせいで大量のスープを注文する羽目になるというコテコテの鉄板ギャグも、リーが演じればちゃんと笑えるシーンになる。これは冒頭の数分でロンがクソ真面目な性格であるという事を観客に伝えているからこそコメディとして成立している訳で、しかもその飲み過ぎが後の展開の伏線にもなっている。このレストランのシーンはストーリーに直接は関係ないものの、役者の演技、演出、脚本が見事に絡み合った上々の掴みと言って良いだろう。
この見事な演出/脚本を担当したのは、なんとブルース・リー本人。この人こんな事も出来たんすね。知らんかったー。
本作でリーは、主演/監督/脚本/製作/音楽監修/武道指導と、なんと1人で6つの役職をこなしている。多彩過ぎるだろっ!!
『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985)で「ジャッキー働きすぎ!」と思ったが、ブルース・リーという先例があったんですね。スターが自分で自分の映画を丸ごと作っちゃうとは、香港映画界恐るべし…!
コメディとしても大変楽しめるが、なんと言ってもやはり見所はリー師父による功夫。まぁこの身体のキレの美しい事…😍
「ブルース・リーすげぇ!!」…って、何を今更って話なんですが、いややっぱり凄い。凄まじい。アクションの所作が美し過ぎて涙を流したのは初めてかも…。こんな人間がこの世に存在していたと言う事実が、正直信じられない程。
つま先から頭のてっぺんまで意識が行き届いており、ステップから蹴り、殴打までが流れる水の如く繋がっている。一流のバレリーナの踊りよりも優雅で、格闘技のチャンピオンよりも雄大。これが真の功夫なのですねぇ…。
この功夫の見せ方もまぁ上手い。前半は冴えないカッペとして周りから舐められまくり、いざ地上げ屋たちが店にやって来てもスープの飲み過ぎに起因する下痢ですれ違う。
周囲からの期待感ゼロの状態を引っ張りに引っ張っておいて、ついに抜き身になる必殺の蹴り!!高速の「ドラゴン・キック」からの、一瞬にして意識を刈り取る蹴撃「ドラゴン・ウィップ」!!
ヤッター🙌これこれこれが観たかった♪
前半30分をフリに使い、観客の期待をパンパンに高めておいてからのフルスロットル。これで盛り上がらない訳がない。「舐めてた相手が実は殺人マシンでした」というのはアクション映画や少年漫画の基本のキだが、本作こそがその頂点。全エンタメに見習ってほしい見事な展開でした。
「力みなくして解放のカタルシスはありえねぇ…」by範馬勇次郎。ワチャーーー…のタメから一転、相手を一瞬で討ち取るしなやかな攻撃。この気持ち良さこそがブルース・リーの功夫である。
それをじっくりと拝む事が出来るのが、コロシアムでの最終決戦。誘い出されたロンを待ち受けているのは、伝説の男チャック・ノリス。本物の全米空手チャンピオンであり、そのインパクトから「チャック・ノリスは玉ねぎを泣かせる」「チャック・ノリスが腕立て伏せをするとき、彼は自分を押し上げたりはしない。彼は世界を押し下げているのだ」といったネットミーム、通称「チャック・ノリス・ファクト」が生み出された80〜90年代を代表するアクション・スターである。
元々ブルース・リーと友人だったチャック・ノリスは、彼の勧めで映画界に参入。今作で本格的なデビューを果たす。
リーとノリスの対決は、正に映画史に残る死闘。真昼間からバチボコにやり合うんだからコロシアムに棲み着いた猫ちゃんたちもビックリである。観光客とかいなかったのだろうか?
胸毛を毟り取るところばかりがフィーチャーされている気がするが、一流の格闘家同士のアクションは見所満載。体躯で勝るチャック・ノリスの上半身を下げるため、膝へのローキックを集中的に放ち、脚をお釈迦にしたところでミドル、ミドルハイ、そしてハイキックの4コンボ!うぉすげぇ理に適ってるぞ!!こう言うリアリティのある攻撃は、やはり武術家ならでは視線によって生み出されたものなのだろう。
まず柔軟体操や可愛い猫ちゃんの画で弛みを作り、そこからの壮絶な決闘、そして決着後はノリスの亡骸にそっと胴着を被せる事でまたトーンを弛ませる。この緊張と緩和のコントロールがやはり上手く、これによりリーvsノリスの対決が何倍も印象的なものになっている様に思う。ここでもリーの監督としての手腕が光っている。
ブルース・リーのアクションは目を見張るものがあるが、反面ドラマ部分は弱い。物語ではなく点在するリーの功夫シーンをただ繋いでいるだけの様に見えるし、実際これはそう言う映画なのだろう。もう少しヒロインとのロマンスなり敵対組織との因縁なり裏切り者の暗躍なりを描いても良かったと思うし、逆にドラマをもっと薄くしてもう少しランタイムをタイトにするというのも一つの手だった様な気もする。
まぁいくらストーリーが弱いとはいえ、それでこの映画の価値が下がる訳ではない。ここまで凄い功夫を観させてもらったのに文句なんてありまへんがな。
13万米ドルの製作費に対し1億3,000万米ドル、現在の価値にして約9億ドルという興行収入を叩き出した脅威の大大大ヒット映画。1,000倍ですよ1,000倍っ!!こんな数字があり得るのか!?
それだけ世界中で彼の勇姿が求められていたのだろう。体制に怖気付く事なく立ち向かう姿は、全世界の虐げられる者達に勇気を与え、特に非白人のヒーローが八面六臂の活躍を繰り広げるその姿は黒人やインド人に支持されたという。ウータン・クランなどのヒップホップ、または大ヒットしたインド映画『RRR』(2022)など、今でもブルース・リーの灯した炎は脈々と受け継がれているのだ。