劇場公開日 1955年11月22日

「黒澤明に続いて反核作品を!」生きものの記録 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0黒澤明に続いて反核作品を!

2021年4月4日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

今は無き銀座並木座で観て以来、
「静かなる決闘」に続いてDVD鑑賞。

テーマは明解だ。
核の恐怖に鈍感でいられるのと、
深刻と捉えるのと、
どちらが精神的に正常か。

核の恐怖については、黒澤監督が
再度「八月の狂詩曲」でも言及したが、
この問題は映画作家には避けては通れない
テーマなのだろう。
スタンリー・クレーマーの「渚にて」、
シドニー・ルメットの「未知への飛行」、
キューブリックの「博士の異常な愛情…」や
タルコフスキーの「サクリファイス」等、
世界の名だたる映画監督が名作を残したが、
黒澤のこの作品は少し中途半端に終わった
イメージだ。

解説ではこの映画の完成前に亡くなった
早坂文雄の話からこの作品の脚本に着手した
との記述があるので、
黒澤作品としては珍しく脚本の練りが
不充分だったのではないか。

特にテーマにつながる準禁治産者への
該当性追求そのものよりも、
家族内確執のシーンが長すぎたり、
多数の妾関連話に時間が費やされたり、
それらが本来のテーマへのウエイトを削いで
しまった感じだ。

しかし、ラストの「地球が燃えている」の
主人公の叫びの場面と、
病院スロープの場面は見事だ。
現状追認主義で無感覚状態から脱しきれない
現役世代よりも、
世間性に染まっていない将来世代に
希望を託したのだろうか。

この作品では死の灰への恐怖を
主にして描かれたが、
現在はより深刻な状況と言えるだろう。
発電所からの放射能漏れのみならず、
日本周辺国の核兵器に依る恐怖等、
ちょっとした切っ掛けで日本など簡単に消滅
しかねない、当時とは比べものにならない
危険な状況に思える。

タルコフスキーが「ノスタルジア」の中で、
芸術家の社会的責任を訴えたように、
現代の映画作家にも是非注目を浴びるような
反核作品を期待したい。

KENZO一級建築士事務所