「移ろいゆく欲望の果て、行き着くところ…。」俺たちに明日はない とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
移ろいゆく欲望の果て、行き着くところ…。
超が付くほど有名なクライム・ムービー。
Baseとなった実在した強盗も有名だったのだろうけれど、映画としても、各方面に多大な影響を与え、創作に関わる方々をインスパイアしてきた。
パロディ、オマージュなんてどのくらいあるのだろう。数える気すら失ってしまう。
映像で行われていることと解離するような、軽快なバンジョーで彩られた物語。
どこか、カトゥーンのような絵空事を見せられているような気になる。
甘いマスクのクライド。
スタイリッシュなボニー。
道化のようなパック(ジョークは全然笑えないけれど)。
いら立たせて、ボニーびいきに一役買うブランシュ。
「大丈夫か?」と心配してしまいながらも、全体の状況を見て、クライドたちに尽くすC・W・モス。
この5人の掛け合いを見ていると、強烈なブラック・コメディを見ているような…。
(こんなクルーには参加したくないが…)
破産した銀行に押し込む間抜けから、初めての殺人、そして…。
強盗場面はあっさりと、もしくは新聞ニュースで描く。
半面、警察とのカーレース・銃撃戦は迫力満点、たっぷりと。
その間に起こる、主要メンバーを簡潔にかつ丁寧に描く。
意外なのは周りの反応。
マスコミが節操なく煽るのは今も同じ。
ボニーの母と、C・W・モスの父の反応はとても共感できるが…。
途中キャンプしていた人たち。識字の問題とか、新聞が買えないとか、情報が届いていないのか、知っていてのあの対応なのか。
とはいえ、ボニーの親戚たち、銀行で難を逃れた人たち…。
よっぽど、銀行は汚いやり方で、被債権者たちを追い詰めていたのか?
ちょっと違和感…。
そんな演出の中、ボニーの変化に胸かきむしられる。
毒婦にふさわしい、眼と唇。将来の見えない同じことの繰り返しに飽き飽きして、刺激を求め、ケチな自動車泥棒・クライドをそそのかしていく様。ゾクゾクする。
悪ぶり、自分を大きく見せようとする、その小賢しさ。
一線を越えてしまった後の暴走。
パック夫婦とクライド兄弟に接して、自分の家族を求める様。
やっと、現実的な自分たちの行きつく果てが見えてくる。
不安。
仲間の死、女として満たされることによって、安定した未来を夢見る様。(州を越えれば捕まらない≒今なら海外逃亡すればつかまりにくくなるようなものか?)
その移ろいゆく欲望、その時々の表情から目が離せなくなる。
そして、落ち着くところに落ち着くのかと思ったその矢先。
衝撃のラスト。
何が起こるかあまりにも有名で知っていてもなおの衝撃。
警察の裏をかいたと思ったが…。それがこうなってこうくるか。
当時を再現したものなのか。
真っ白なクラッシック・カー。
真っ白なドレス。
ワイシャツにベスト、片方だけ入った丸渕の黒いサングラス。
周りに比べて、なんともスタイリッシュな出で立ち。
二人の位置もこう配すか…。
ここには軽快な音楽もない。
ただただ、情景音のみ。直前の会話はあれど、断末魔も聞こえない。ただひたすらに鳴り響く〇〇。
それまでのトーンと全く違う。
この落とし方。
それまでの、カトゥーン的展開がすべて吹っ飛んで、そのラストだけが記憶に残る。
見直して、やっとボニーの繊細な表情を思い出すことはできるけれど。
それほどのインパクト。
狙って演出されたのだろう。
見事。
そして、映画は永遠のものとなった。