生きるべきか死ぬべきかのレビュー・感想・評価
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亡命者たちによるルビッチの傑作
巨匠エルンスト・ルビッチ監督の「生きるべきか死ぬべきか To Be or Not to Be」を、久し振りに今回は2Kデジタル仕様のBlu-rayで観た。
第二次世界大戦下、ヒトラー率いるナチスドイツがポーランドに侵攻し、首都ワルシャワを占領したまさにその時代に、ドイツ人のルビッチが、ハンガリー人の友人メルショア・レンエルの原案を基にハリウッドで製作した痛快コメディだ。
映画の題材、舞台設定からは、悲痛で暗い反戦映画、スリリングなスパイ映画、或いはフィルムノワールを想像してしまいがちだし、実際に戦時下のハリウッドにおいてはそのような戦意高揚映画がたくさん作られていたそんな時代に、風刺の利いた乾いた笑いと無駄の無いスピーディな演出で一気に見せる傑作だ。
ワルシャワで、「ハムレット」を演じる自称名優の主人公ジョセフ・ツラ(ジャック・ベニー)とその妻で美人女優のマリア(キャロル・ロンバード)を中心とした役者、演出家たちが、突然レジスタンス活動、スパイ騒動に巻き込まれ、実在するゲシュタポのスパイ、ナチスの要人やヒトラーに扮しながらの偽装に次ぐ偽装を凝らした役者ならではの演技で危機を乗り切っていく。登場人物たちが偽装することにより、笑いが巻き起こり、劇が進行していく面白さは、後の名匠ビリー・ワイルダー監督の数々の傑作コメディに引き継がれていくことになる。そんな偽装した役者たちの部屋から部屋への出入り、ドアを介した内と外で繰り広げられるだまし合い合戦に、ベニーとロンバードの二人によるスクリューボール・コメディさながらの笑いが織り込まれていく。
全てのシーンがハリウッドのスタジオ内とオープンセットで撮られたコメディであるにも拘わらず、ポーランド、ワルシャワという舞台設定に違和感を感じさせないのは、やはり監督がドイツ人のルビッチで、原案のレンエルがハンガリー人であること、更に撮影監督がカール・テオドール・ドライヤー監督の「吸血鬼 Vampyr (‘32仏独)」、アルフレッド・ヒッチコック監督の「海外特派員 Foreign Correspondent (‘40米=ユナイト)」等で有名なポーランド人のルドルフ・マテであり、音楽がヴェルナー・R・ハイマン(ドイツ人)およびクレジットなしでミクロス・ローザ(ハンガリー人)も参加していると言った欧州出身のスタッフ(その多くはハリウッドに亡命中であった)が集結しているからであり、その功績は無視出来ない。コメディでありながら、若き日のロバート・スタック演じるポーランド空軍のソビンスキー中尉が、パラシュートで降下して雪が降り積もるワルシャワに潜入する夜のシーンは、良質な戦争アクションかスパイ映画の演出を思わせるし、ルドルフ・マテによる光と影のコントラストの利いた美しいモノクロ撮影は優れたフィルムノワールの一シーンの様ですらある。
巨匠ルビッチの代表作の一本であるのと同時に、彼ら欧州からの亡命映画作家たちの努力と才能が実った稀有な作品とも言えるだろう。
第二次世界大戦下において、このような乾いた笑いでナチスドイツをも見事に風刺して笑い飛ばしてみせたのは、映画史においては、ルビッチの「生きるべきか死ぬべき」と「チャップリンの独裁者 The Great Dictator (‘40米=ユナイト)」ぐらいしか存在しないだろう。
笑えるノン/フィクションの強さと悲しさ
騙す、反復、皮肉、コメディ手法満載の、そしてあくまで上品なルビッチの傑作
【”うーむ。これが、ルビッチ・タッチですか。面白いなあ。”ユダヤ系のエルンスト・ルビッチ監督がナチスに反発し、一泡吹かせようとする演劇人たちの姿を独特のコメディタッチで描いた逸品。】
■1939年、ポーランド。
劇団の女優・アンナ(キャロル・ロンバード)は、夫で座長のヨーゼフ(ジャック・ベニー)が頑張って「ハムレット」を演じている時に、彼女の熱烈なファンであるポーランド空軍中尉・ソビンスキーと楽屋で会っていた。
ドイツ軍が侵攻してくると、ロンドンに駐在していた中尉は、ナチスのスパイの英国人教授シレツスキーを追って帰国する。
そして、教授の陰謀を阻止すべく劇団に協力を求める。
◆感想
・テンポの良い、センスあるコメディである。しかも、この作品は資料を見ると1942年公開と有る。これだけでも、エルンスト・ルビッチ監督のナチスに対しての怒りが伺える。
・序盤、ヨーゼフが”生きるべきか、死ぬべきか。”と舞台で台詞を喋っている時に、ソビンスキーが楽屋にいるアンナに会いに行くために、何度も中座するシーンが可笑しい。
中座の度に、目を剥くヨーゼフ。そりゃ、そうだろう。「ハムレット」の見せ場の一つなのに、何度も中座されてはね。
・ポーランドにナチスが進軍してきて、劇団の劇場も破壊されてしまうが、彼らはヒトラーに一泡吹かせようと、ナチスのスパイの英国人教授シレツスキーを使うシーン。
特に、ヨーゼフがシレツキーに変装する”付け髭”について、ナチスのエハアルト大佐との遣り取りのシーンは、絶品である。
<うーむ。これが、ルビッチ・タッチですか。面白いなあ。美しくも残念ながら早逝されたというキャロル・ロンバートの、スクリュー・ボールコメディ演技(流石に、この言葉は知っている。)も良くって、もう少しエルンスト・ルビッチ監督作品を観てみようと思った作品である。>
映画史上最高のブラック・コメディの1つといえる。
ナチス侵攻のポーランドから、国外脱出を図る俳優一座を描いたコメディ映画。ノンストップで次々と騒動が起こり、最後まで見逃せない傑作だと思う。
ナチスの協力者という教授から、抵抗活動の仲間のリストを取り戻すため、俳優一座でニセのゲシュタポ本部を立ち上げ、ナチスを騙して国外脱出するまでを描いた、独創的なスクリューボール・コメディだ。
俳優一座の座長が、妻とポーランド空軍の中尉との不倫を知るのだが、この三角関係が、なんとも面白おかしい。ナチスの危機が迫る中で、ナチスをネタにした数々のギャグを交え、ユーモアたっぷりに描いている。
とても素早い展開で、無駄のない脚本。ドイツ軍のポーランド侵攻を、エネルギーにあふれたドタバタ劇に昇華している。ファシズムという題材を、こんなにまでカラッと、それでいて流れるように描いた、ブラックコメディの傑作だ。
シリアス・コメディ両刀遣いのルビッチ監督
第二次世界大戦の最中、
これほどにウイットに富み風刺の効いた
ハイセンスコメディ映画
が制作されていたのかと驚かされた。
もしこんな作品が、この現代に新作として
公開されていたら、相当な話題作として
評判になっていたのでは。
私は基本的にコメディ映画は苦手で、
なかでも時代風刺やヒューマニズムを欠いた
コメディは好まない。
しかし、この作品の全てを網羅した上での
高尚なウイット満載の内容には脱帽した。
しかも本来は深刻なはずの「天使」ような
三角関係要素を、今度は
コメディタッチで入れ込んだセンスは
見事と言うしかない。
チャップリンの「独裁者」と同じく、
時代観察者としての批評姿勢にも感服する。
ルビッチ監督映画としては「私の殺した男」が
シリアスタッチ作品の最高峰と思うが、
この「生きるべきか死ぬべきか」は
ユーモア・コメディタッチの最高峰作品
と言えそうである。
ルビッチタッチ全開の傑作コメディ
ヒットラーのそっくりさんを巧みに利用したナチス風刺と、サイレントの傑作「結婚哲学」を想わせる男女の恋の駆け引きを皮肉たっぷりに、ユーモアも鋭く描いた、正しくルビッチタッチ全開の傑作コメディ。シェークスピア劇のハムレットを演じる座長ジョセフが、ナチスのスパイ・シルスキー教授に成り済まして大芝居を打つ下りが素晴らしい。人を騙すことの可笑しさ、騙す人間が騙させる滑稽さを知り尽くしたルビッチ監督だから表現できる、大人の知的ユーモアを味わう。キャロル・ロンバートの扱い方が巧い。夫ジョセフを愛してると何度も言わせて、妻マリアの浮気心をストーリーの変換に生かし、ラストはジョセフとソビンスキーと観客をも出し抜く強かさと可愛らしさで止めを刺す。
初めてのルビッチ
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