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自宅(CS放送)にて鑑賞。仏・伊合作。久々の鑑賞となるJ-L.ゴダールは全篇モノクロで、半世紀以上(正確には53年!)前の一本。ハードボイルやSFへのオマージュに満ち溢れており、仰々しいBGMが全篇に亘り奏でられている。判り易いストレートな物語は近未来だった'84年の設定であるが、画面内の街や登場する拳銃等は、製作された'65年のパリや当時の物であり、あくまでSFの態のハードボイルド。その意味でCGIで飾られた昨今の画面を見慣れた層や複雑なストーリーに馴れ親しんだ向きには、物足りなく映るかもしれない。65/100点。
・地球から9,000km離れた星雲都市アルファヴィル。「コインをどうぞ」と書かれた投入口にコインを入れると、「ありがとう」と書かれたプラスチック板を吐き出すだけの販売機。公開処刑はプールで行われ、その罪は妻が死んで泣いたから等々、ドライで異常なディストピアの日常が描かれており、これはG.オーウェル原作の『1984('84)』に似た管理社会を彷彿させる。但し本作でファシズムを掌り、絶対権力を握る指導者はコンピューターである。
・終始、しゃくりあげる様な嗄れた妙な音声の“アルファ60”は云う迄もなく『2001年宇宙の旅('68)』に登場する“HAL9000”の原型であろう。何かと饒舌気味な“アルファ60”の「時は私が作っている」と云う意味の科白は、J.L.ボルヘスが'46年に記したエッセイ『新時間否認論』の一節からの捩りであろう。
・単語だけではあるが、劇中内には“トーキョーラマ”や“ヌェヴァヨーク”、“ペキンラマ”と云った都市名が登場する。A.タミロフ演じる“アンリ・ディクソン”にE.コンスタンティーヌの“レミー・コーション”が読み聴かすのは、P.エリュアールによる'26年の詩篇『苦悩の首都』の一節であり、これは本作の伏線であると思われる。
・監督はP.チェイニー原作の『レミー・コーション/毒の影('53)』から始まるシリーズより、E.コンスタンティーヌの当たり役となった“レミー・コーション”の役名と演者をその儘、拝借した。H.ヴェルノン演じる“レオナール・ノスフェラトゥ・フォン・ブラウン”教授の“レオナール・ノスフェラトゥ”は『吸血鬼ノスフェラトゥ('22)』へのオマージュであり、監督は当初、R.バルトにこの役を想定していた。
・ノンクレジットであるJ-A.フィエスキの“ヘッケル”教授と同じくノンクレジットのJ-L.コモリの“ジャッケル”教授は、'40年代、P.テリーによる米国のTVアニメ『ヘッケルとジャッケル』に由来する。これは我国でもTV放映され、牟田悌三による無表情なナレーションが人気を博した黒い二羽組のカササギによるアニメで、東芝のCMキャラクターにも起用された。
・本篇の半分過ぎ辺り、『大人は判ってくれない('58)』や『二十歳の恋('62)』、『中国女('67)』、『逃げ去る恋('78)』等で知られるヌーヴェルヴァーグを代表する俳優J-P.レオが“レミー・コーション”のE.コンスタンティーヌと“ナターシャ・フォン・ブラウン”のA.カリーナが居る安ホテル“赤い星”の朝食を提供するボーイ役としてカメオ出演しているが、彼はC.L.ビッチやH.カルーギン、J-P.サヴィニャックらと共にノンクレジットで助監督も務めた。
・評論家でプロデューサーのS.シュナイダーの「死ぬ迄に観た方が良い1001本 "1001 Movies You Must See Before You Die"」に選出されている。亦、パキスタンにおいて、'70年7月10日附けで一切の上映禁止と云う憂き目に遭った。
・鑑賞日:2018年9月18日(火)