監督脚本ジェームズ・キャメロン。
小説化を、『エンダーのゲーム』のオースン・スコット・カードが担当。
【ストーリー】
キューバの南、カリブ海カイマン海溝。
作戦行動中のアメリカ原潜モンタナが、謎の高機動物体とニアミスして沈没する。
付近で作業中だった移動型掘削設備"ディープ・コア"のバド(エド・ハリス)ひきいる石油試掘チームが、派遣された調査部隊のサポートを依頼される。
彼らのアドバイザーとして同伴してきたリンジー(メアリー・エリザベス・マストラントニオ)は、ディープコアの設計者で、バドの元妻だった。
上空にはハリケーンがとどまり、設備地上部が暴風にさらされ事故が続発する中、調査チームのリーダー、コフィ大尉があやしい動きをみせる。
キャメロンが長年あたためてきたSFスリラー。
ストーリーと登場人物の描写やドラマは、同じ閉鎖空間での緊張を描いたSF『エイリアン』よりも練られたものながら、ホラーっぽい宣伝イメージからか興行成績はふるわないものとなりました。
内容を見てもらえればエイリアン型ホラーではなくファーストコンタクト物で、水の表現や知性体の神秘性はスタニスワフ・レム原作の『ソラリスの陽のもとに』、またはタルコフスキーによるその映画化『惑星ソラリス』に、より近いものになってます。
今ではめずらしくない水のCG表現も、実はこの映画が先駆。
この次作『ターミネーター2』で、液体金属ボディをもつT-1000型の表現にも使われ、近年では『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』には大きく進化したエフェクトが使われています。
さらに先進的なSF技術として、深海の高圧下で行動するために潜水服に高酸素水をみたした液体呼吸を、『新世紀エヴァンゲリオン』のLCLに先んじて登場させてます。
本当の水中設備で、実際に水中で撮影された多くの場面も、この映画の画面説得力を文句を言わせないレベルで強化しています。
2013年に映画化された『エンダーのゲーム』の作者、オースン・スコット・カードが、キャメロンたっての希望でこの映画を小説化しています。
「シナリオのノベライゼーションというものがある(中略)私はこの映画のノベライゼーションだけは作らせまいと決心した。その代わり、本物の"小説"を書いてもらうのだと」
とまあセリフのあいまに説明ちょいちょい足しただけのノベライズを思いっきり批判しつつ、カード本人を現場に連れてきたり潜水させたりして小説の完成度にも貢献しています。
完成した小説版『アビス』は、リアリティあるハードSFながらエンタメかつ詩的にも優れた、カードの代表的な仕事の一つとなってます。
カード自身もこの経験は刺激的だったようで、あとがきでは目のあたりにした俳優たちの演技、とくにエド・ハリスの存在が小説を書くさいにおおくのヒントをもらえた旨を記してました。
最初のアポロ宇宙飛行士3人を足して割ったようなエド・ハリス。
『ライトスタッフ』や『アポロ13』や『ゼロ・グラビティ(声のみ)』にも出ていたエド・ハリス。
小説版には元嫁リンジーの建設へのこだわり(チタンの指輪とか)や、トイレに落とした指輪を取ったせいで指が染まったあたりの詳細も、こまかく描かれてます。
あとディープコアⅡ(小説版にはⅡ表記あり)の縦横面図が収録されていて、SF変態映画マニアにはたまらん一冊、いや上下巻だから二冊ですよ。ムホホォ!
海中、閉鎖空間、ファーストコンタクト(第五種接近遭遇)といった難しい材料で作り上げた、一級品のSFスリラー作品。
エンタメではいい加減に撮られがちなクルーたちも、それぞれ得意分野で活躍しますし、その辺も高ポイント。
たった一つ言いたいのは、あの特殊部隊のパート。
あの部分がないと、ストーリーになんの困難も無くなってしまうのは分かりますけど。
要らなかったんじゃ…。
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