劇場公開日 2001年8月11日

「須野? 聞いたことないなあ。」路地へ 中上健次の残したフィルム 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5須野? 聞いたことないなあ。

2025年5月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

中上健次が死去した7年後(たぶん)の、1999年8月9日松坂。著書の断片の朗読とともに、一台の車を新宮に向かって走らせながら始まる。新宮へ、とは何の紹介もないが国道42号線を南下するのだから新宮に決まっている。それは中上健次を知る者なら当然そう思う。そしてただひたすら車を走らせる映像が流れるのだが、それはなかなか中上健次の名残りに会わせようとしない焦らしのようにも思えた。
そして唐突に、ドキュメンタリーかと思っていたのに物語が始まる。なのにまた朗読の世界を邂逅する。そんなふわふわとした気分の中で時間がすぎていく感覚だった。新宮は、太平洋を目の前にした街なのに日本海よりも暗く、本州の真ん中なのに北海道の果てよりも遠くに感じる。"路地"のある根の国、がそこにある。それは何度か訪れた新宮の印象そのものだった。

栗太郎