夜の河

劇場公開日:

夜の河

解説

伝統を誇る京染の世界に材を採り、一筋の恋に人生の真実を求めて生きる女の姿を描いた沢野久雄の原作を「女囚と共に」の田中澄江が脚色し、「嫁ぐ日」の吉村公三郎が監督、「赤線地帯」の宮川一夫が撮影を担当。主な出演者は「銭形平次捕物控 人肌蜘蛛」の山本富士子、阿井美千子、「婚約三羽烏」の上原謙、「惚れるな弥ン八」の小野道子、「スタジオは大騒ぎ」の川崎敬三、市川和子、他に夏目俊二、舟木洋一、星ひかる、山茶花究、東野英治郎、小沢栄など。

1956年製作/104分/日本
配給:大映

ストーリー

京都、堀川の東一帯に立ち並ぶ京染の店。その中に「丸由」と屋号を名乗る舟木由次郎。五十年来の老舗だが、慌だしい世相に若い職人は労働基準法を云々、最近休業の染屋が三軒もある時勢。由次郎は七十歳、後妻みつとは三十も違い、今では長女きわが一家の中心、ろうけつ染に老父を凌ぐ腕を見せている。新婚旅行の妹美代と清吉を京都駅で見送った帰途きわは画学生岡本五郎が、彼女を描いて出品している青樹社展覧会場に寄る。岡本はきわに好意を寄せている。きわはろうけつ染を、四条河原町の目抜きの店に進出させたいと思ったが、話は仲々に困難。それを知った近江屋は彼女の美貌に惹かれ、取引先の店を展示場にと約束するが妻やすの眼がうるさくてならない。きわは唐招提寺を訪れた折、桜を訪ねて来ていた阪大教授竹村幸雄、娘あつ子と知り合う。そして新緑五月、堀川の家を訪れた竹村との再会に喜ぶきわ。市内を散策する中、きわは彼と別れ難い気持になる。きわは阪大研究室に竹村を訪問。彼は助手早坂と猩々蝿を飼育、遺伝学の研究に没頭しているのだ。競争相手の婦人服デザイナー大沢はつ子と競って、きわは近江屋の紹介で東京進出にも成功。きわの出品作は燃えるような猩々蝿を一面に散らしたものだった。東大の研究発表会に来合わせた竹村と逢ったきわは、彼の発見した猩々蝿が飼育のミスから全滅したと聞く。加茂川の宴会で近江屋の手から逃れたきわは、友達せつ子の経営する旅館みよしで竹村と逢う。彼は岡山の大学に変るという。二人はその夜結ばれた。岡本は、きわに竹村との仲を忠告。怒りを浮かべるきわに、僕は貴女を尊敬しているのだと岡本は叫ぶ。数日後、竹村の娘あつ子の口から、竹村の妻が長い間病床に伏していると聞いたきわは驚く。彼女は竹村を忘れたいと願う一方、思慕の心をも押えきれない。大阪へ所用で赴いた折、きわは竹村と白浜に行った。そこに竹村の妻の病勢悪化の電話。彼女は死去。喪服に身を包んで告別式に出たきわは「もう少しだ。待ってくれ」と云った白浜での竹村の言葉を思い出す。残酷な言葉。うちは違う、と、きわは泣きながら、心の中で叫び続けた。

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(C)KADOKAWA1956

映画レビュー

4.0大映4K映画祭にて再見

2023年1月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

角川シネマ有楽町にて鑑賞。
この映画、9年前に観ていたが、「大映4K映画祭」で<4Kデジタルリマスター版>が上映されたので久しぶりに鑑賞。
やはり、京都の染物屋での染物が鮮やかな色彩となっており、主人公の舟木きわ(山本富士子)と大学教授(上原謙)が初めて一緒になる場面での夕陽の色が綺麗であった。

ただ、今回の『夜の河<4K版>』、音質も改善されたのかクリアだったが、クリア過ぎて「山本富士子や若い女性の高い声がキンキンと耳に突き刺さる感じ」がちょっとキツかった(^^;
これは映画館ならでは…の音響によるのかも知れない。
(若尾文子のように円やかな質感の声だったら良かったかも…)

物語は、京染老舗の娘=舟木きわ(山本富士子)が、仕事一筋に父親(東野英治郎)と一緒に染物づくりに専念してアラサーだが結婚せずにいる。
そこに、岡本五郎なる画家(川崎敬三)が舟木きわに恋慕するものの、彼は子ども扱いされる。
そこに、大学教授(上原謙)が現れて、舟木きわと深い仲になる。
…まぁ、本命の上原謙が登場だから、そうなるのが普通(笑)

川崎敬三だけでなく、舟木きわの商売手助けをしながら下心丸出しの男(小沢栄)が、いい味だしていて、笑える(笑)

吉村公三郎監督の初カラー映画で、それを撮影監督の宮川一夫が補ってあまりある「カラーが綺麗な映画」になっている。
山本富士子は「五社協定問題」で大映退社後、かなり辛い思いをしたそうだが、この映画は山本富士子の代表作と言える。彼女の熱演が伝わって来る佳作。

<映倫No.2256>

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たいちぃ

4.0お別れしまひょ 握手しておくれやす

2021年8月26日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

知的

想像以上にとてもいい映画でした。山本富士子の映画もドラマも見たことなく新派みたいな人?といったイメージしかありませんでした。それは大きな間違いでした。宮川一夫のカメラはもちろん、田中澄江の脚本が素晴らしい。当時の空気をリアルに感じました。まだ戦後、民主化、労働者の権利、メーデーのデモ行進。様子が晴れやかに映りテーマになっていた。5月1日は世界的にメーデー、休日で集会に参加するのが例えばヨーロッパでは普通というかみんな知ってるけど日本はしない?あるいは知られていない?やってんのかな?ゴールデンウイークとか作って見えなくされたのかな。

ろうけつ染めの今でいえば染物作家先生である、30歳手前あたり独身のきわ=山本富士子。同じ染物職人の父親も認める腕の持ち主。職人としてだけでなく商売のセンスもある。嫌なこともたくさんある。商いのストレス、とりわけ商売相手の男の嫌らしさ(セクハラ、パワハラ)、廃れ始める着物文化、京都という窮屈な町の人間関係の煩わしさ。そんな中で主人公のきわを演じる山本富士子は仕事をして自分の足で立っている女性で、人あしらいも上手で頭もいい。男女関わらず年齢も関わらず皆から一目置かれ愛されあるいは尊敬され憧れられる対象。本人はでもそんなの軽く受け流す感じに見える。

そんなきわが男(大阪大学教授。専門は赤ショウジャウバエ!だから、きわは赤い蠅のモチーフを染めて着物にした。モダンで素敵。虫好きにとっては萌える柄)と偶然出会い愛することになったけれど、その男の偽善と狡さを見抜く。それに目をつぶって先に進むことを彼女は選ばなかった。長患いの妻が亡くなったから結婚は当然と思っている男にがっかりしたし、男の娘は自分を真っ直ぐな眼差しでおばさまと慕ってくれる。後ろめたい思いで自分の恋を成就させる気持ちは彼女にはない。この映画はフェミニズム映画だと思った。山本富士子、かっちょいいー!

男に別れを切り出し「これからはお友達、握手をしましょう」と差し出す彼女の手の指が染め物の藍色に染まってるところは何にもまして心に沁み入りました。ふと、講談から落語になった「紺屋高尾」を思い出しました。あと思い出したのは、きわが家の仕事場で髪を洗っている場面。真っ白な肩に漆黒の洗い髪の姿は上村松園の絵から抜き出たかのよう、息をのむほどの美しさでした。

おまけ
帯締めの位置が帯の真ん中よりかなり下。この映画でも「細雪」(1959)でも。京都、大阪のやり方?当時の流行り?新鮮だった。細長くてソリッドなバッグが流行っていたみたいだった。それを左手で縦に抱える感じで持つと手の位置が美しく決まる。細雪でも同様。

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talisman

4.0山本富士子の美しさ、宮川一夫のカラー映像の素晴らしさ

2020年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:TV地上波

純愛に生きる京女の内面を優しく、時には頑強に描く情趣深い作品。脚本がいい。吉村公三郎演出も弛緩することなく堅実にまとめる。山本富士子の美しさ、演技が一際輝く。宮川一夫の色合いを強調したカラー映像の世界に感服する。教授役の上原謙がもうひとつ冴えない。男の嫌らしさ身勝手さをもっと出せたら、女の虚しさが美しく更に表現されただろう。

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Gustav
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