劇場公開日 1956年9月12日

「お別れしまひょ 握手しておくれやす」夜の河 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0お別れしまひょ 握手しておくれやす

2021年8月26日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

知的

想像以上にとてもいい映画でした。山本富士子の映画もドラマも見たことなく新派みたいな人?といったイメージしかありませんでした。それは大きな間違いでした。宮川一夫のカメラはもちろん、田中澄江の脚本が素晴らしい。当時の空気をリアルに感じました。まだ戦後、民主化、労働者の権利、メーデーのデモ行進。様子が晴れやかに映りテーマになっていた。5月1日は世界的にメーデー、休日で集会に参加するのが例えばヨーロッパでは普通というかみんな知ってるけど日本はしない?あるいは知られていない?やってんのかな?ゴールデンウイークとか作って見えなくされたのかな。

ろうけつ染めの今でいえば染物作家先生である、30歳手前あたり独身のきわ=山本富士子。同じ染物職人の父親も認める腕の持ち主。職人としてだけでなく商売のセンスもある。嫌なこともたくさんある。商いのストレス、とりわけ商売相手の男の嫌らしさ(セクハラ、パワハラ)、廃れ始める着物文化、京都という窮屈な町の人間関係の煩わしさ。そんな中で主人公のきわを演じる山本富士子は仕事をして自分の足で立っている女性で、人あしらいも上手で頭もいい。男女関わらず年齢も関わらず皆から一目置かれ愛されあるいは尊敬され憧れられる対象。本人はでもそんなの軽く受け流す感じに見える。

そんなきわが男(大阪大学教授。専門は赤ショウジャウバエ!だから、きわは赤い蠅のモチーフを染めて着物にした。モダンで素敵。虫好きにとっては萌える柄)と偶然出会い愛することになったけれど、その男の偽善と狡さを見抜く。それに目をつぶって先に進むことを彼女は選ばなかった。長患いの妻が亡くなったから結婚は当然と思っている男にがっかりしたし、男の娘は自分を真っ直ぐな眼差しでおばさまと慕ってくれる。後ろめたい思いで自分の恋を成就させる気持ちは彼女にはない。この映画はフェミニズム映画だと思った。山本富士子、かっちょいいー!

男に別れを切り出し「これからはお友達、握手をしましょう」と差し出す彼女の手の指が染め物の藍色に染まってるところは何にもまして心に沁み入りました。ふと、講談から落語になった「紺屋高尾」を思い出しました。あと思い出したのは、きわが家の仕事場で髪を洗っている場面。真っ白な肩に漆黒の洗い髪の姿は上村松園の絵から抜き出たかのよう、息をのむほどの美しさでした。

おまけ
帯締めの位置が帯の真ん中よりかなり下。この映画でも「細雪」(1959)でも。京都、大阪のやり方?当時の流行り?新鮮だった。細長くてソリッドなバッグが流行っていたみたいだった。それを左手で縦に抱える感じで持つと手の位置が美しく決まる。細雪でも同様。

talisman
あき240さんのコメント
2023年4月8日

帯締めの位置やバッグの形と持ち方に着目されたことに敬服しました
自分は気づきもしませんでした
さすがです!

あき240