「復讐鬼」ゆきゆきて、神軍 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
復讐鬼
総合:65点
ストーリー:
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ビジュアル:
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戦後数十年たってなお戦争の傷を引きずり続ける元兵士の人生のドキュメント。内容的にはきつい話だし決して楽しいものではない。
あまりに悲惨な経験をしてその中で生き残ったため、怨嗟の塊となって過去を引きずり続ける。天皇を糾弾し元上官を訪ねては非難し時には殴りかかる。延々と彼の負の感情が撮影され続ける。そしてそれを裏付ける彼の極めて生々しい経験がところどころで登場する。特に人狩りの話などはなかなかに衝撃的である。
だがこの人、恨みがあまりに深くて周囲が見えなくなっているとも思う。彼がそのような生き方をし続けるのは理解出来ないでもない。彼もまた悲惨な戦争と、当時の不合理な日本の社会の犠牲者であることに疑いはない。
だが最後に戦争に関係ない上官の息子を攻撃するなど、正直意味がない行動である。またお飾りで当時から殆ど権限のなかった天皇の戦争責任を追及し続けたところで、今更どれだけの人が幸せになれるだろうか。そのようなことをしても新たな恨みを生み負の連鎖を生むだけ。
戦後に軍から開放され自由になった自分の人生をも犠牲にしてまでそうせざるをえなかった、到底抑えることなど出来ない彼の感情。復讐の鬼と変わり日本各地を訪ねては恨みの言葉を叫び続ける男。見ていて痛々しくもあり、理解もある程度出来て同情の気持ちも沸き、最早取り返しのつかないことにこだわり続けて間違っているなと感じる部分もあり、とても複雑な気持ちになる。当事者でないとわからない部分があるのは間違いないのだが、自ら進んで永遠に続ける彼の呪いの人生と不幸を見るのは決して愉快ではない。
だが彼のそのような人生もまた、悲惨な戦争の結果というだけでなく、戦争の陰にある悲惨な戦争犯罪や必要以上の悪の結果である。そのようなことが具体例としてわかるという意味において、またそれから逃れられない男の生き様という意味において価値のある映像である。