夜叉のレビュー・感想・評価
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ナンシー・ウィルソンの歌声に酔いしれる、そして健さんに思いを馳せる
亡き高倉健さんと降旗康男監督、そして今なお現役の木村大作キャメラマンの極上の1作。
健さんの格好良さはもちろんだが、いしああゆみの強さ、田中裕子の儚さが対極に位置していて、どちらも美しい。
ナンシー・ウィルソンが歌う「ウィンターグリーン&サマーブル」が絶妙で、トゥーツ・シールマンスのハーモニカもまた染み入る素晴らしさ。日本海の荒波とジャズが合うなんて、今作を見るまで思いもしなかった。
それにしても、幻に終わってしまった、「あなたへ」の後に撮影するはずだった健さんと田中邦衛さんの共演作、見たかったなあ…。
田中裕子
昭和50年代の、田舎と都会の落差。ギャップ。
レビューはたいてい飲みながら書いて途中で投げ出すことが多いので、要点を先ずは。
2024年テレビで鑑賞。
とても面白かった。
田中裕子が凄い女優だというのも合点がいった(当時わたしは子供でした)。
前半部は目が離せない密度の濃さだった。
画面が無言で訴えかける情報量に圧倒された。背景にも、俳優陣の演技にも。
が、映画の構成としては「お定まり」な場面がちょこちょこあったのが気になった。わかりやすい演出ともいえるから全否定はしないが、雑な感じがしてもったいないなあというのが正直なところ。
主人公のヤクザ時代を振り返るシーンは過剰だし。
子供は子供がいるという記号みたいなもんだし。
濡れ場もいきなりアーバンな。いくら都会と田舎のギャップがこの作品のキモとはいえ。
それでも全体を貫き続ける緊張感が削げないことが凄い。
そして多くのシーンが「絵」になっている。アートになっている。
そして健さんはみんなが見たい健さんだったと思う。嫌味ナシです。
物語は昭和らしく、男性目線。
不倫行為が悪いとは言わないけど、ああ、こういう流れを求める心情は多くの男性にあるのだろうなと…
お酒が回ってきたがもうちょっと書くと、「ふたり」「ペア」な人間関係が引き立つ映画だと思った。
修治と冬子。
修治と蛍子。
修治と矢島。
冬子と母。
冬子と蛍子。
蛍子と矢島。
これは個人的な好みだとは思うが、最後に流れる主題歌についてわたしは唐突感が否めなかった。
大人の娯楽映画
刀
情緒溢れる上質な娯楽映画
上質な日本的エンターテイメント映画という印象。
まず、高倉健がかっこいいこと!田中裕子のかわいいこと!高倉健については、役者イメージの過渡期だったのか、寡黙な漁師の男と、ヤクザな男との、2通り楽しめて豪華。
そして、港町のどの場面も日本的な暖かさや情緒が溢れていて美しく暖かみがあり、観ているとしっとり心が落ち着いてくる。
登場人物にも日本的な?おもしろさがあり、男たちは力強いけれど子供っぽい面があり、女は、しごとは男にやってもらうが、冬子にせよ蛍子にせよ、精神的には逞しく太っ腹で包容力がある。
西島はどうせ救い出されるんでしょ、と思っていたので意外だった。
過去を捨てきれていない男が、もう一度自分を確かめたが、結果的には失敗してしまった。彼が完璧でなかったところが、この映画や高倉健のイメージを、愛嬌のあるものにしている。
人生思った通りにいかないもの。でも、ひでおのように、撒いた種が育っていたりすることもある。
ストーリー的にも捻りのきいた楽しさがある映画だった。
昭和、幸福な時代
素晴らしい傑作映画を堪能した幸福感の余韻が長く残ります 降旗康男監督の最高傑作と思います
凄まじいばかりの傑作!
この作品における降旗康男監督は神がかっています
脚本、演出、撮影、音楽、配役、美術、何もかも最高だ!
最初から最後まで痺れ通しです
隅から隅まで美意識が行き届いています
最高峰のヤクザ映画でもあります
このジャンルの最高到達点だと思います
それなのに東宝なのです
東映岩がでてくると思っていたのに東宝マークが出て来てまず驚いてしまいます
いしだあゆみ、田中裕子、田中邦衛、そして高倉健
常連俳優達に当て書きされたような脚本と配役です
もちろんビートたけしの鬼気迫る名演技が本作を引き立ています
あき竹城も素晴らしい演技をみせています
修治を演じる高倉健は、中年から初老に差し掛かる男が見せる最後の足掻きにも似た焦燥感を巧みに表現しています
心の中の夜叉がそのまま老いさせてはくれないのです
本作のテーマでもあります
音楽も洒落ています
トゥーツ・シールマンスのハープが本作の世界を見事に支配してかつマッチしています
彼はジャズフュージョンハープの名手です
主題歌のナンシー・ウィルソンも良いです
この人はジャズボーカルの大御所
劇中でもジャズを上手くBGMとしており、田舎の漁師街の話を垢抜けたものにする魔術を発揮しています
冬の日本海の波濤、雪、曇天山陰の光景、そして美しい石造りのアーチ橋
木村大作のカメラは、それらを彼でしか撮れない美しい構図と色彩とレンズの味の映像で捉えています
彼のキャリアでも一二の仕事だと思います
ラストシーンの田中裕子の勝ち誇った不気味な笑顔
夜叉とは彼女のこの笑顔のことだったのです
これこそが本作の結論だったわけです
素晴らしい傑作映画を堪能した幸福感の余韻が長く残ります
降旗康男監督の最高傑作と思います
矢島が殺された千日劇場跡はいまのビッグカメラが建っているところ
正にミナミのど真ん中です
ひとりの男にふたつの人生。
Blu-rayで鑑賞。
大阪・ミナミで「人斬り夜叉」と恐れられた北原(高倉健)は、惚れた女のために足を洗い、日本海に面した港町で漁師として働き、息を潜める様に暮らしていました。
そこへ螢子(田中裕子)と云う女が現れました。螢子が平和な町にやくざが絡んだ揉めごとを持ち込んだことで、北原の体の奥底に眠っていた夜叉が目を覚まし…
これぞ高倉健の真骨頂。冒頭の殺しのシーンで一気に物語に引き込まれました。めちゃくちゃカッコいい。拳銃を構えた姿も刀を振り回す姿も、どちらも様になっている…
そんな過去を持つ男だからか、惚れた女と結婚し、漁師として静かに暮らしながらも、どこか燻っている様な印象でした。
都会を纏った雰囲気の螢子が現れたことで点火され、矢島(ビートたけし)との諍いにより眠っていた血が溢れ出す…
今の生活との狭間で揺れる想いに心揺さぶられました。ミナミに戻っての一暴れもどこか悲しげで、切なくなりました。
※修正(2023/03/07)
田中裕子と北の海
高倉健はなぜ降籏康夫と組み続けたんだろうか…。
正直、降籏康夫作品ってどれも薄っぺらく思えて、自分的には評価できない。
高倉健が演じるのは“いいヤクザ”と相場が決まっているのだが、この映画の健さんは怖いヤクザなのかいいヤクザなのかハッキリしない。
元ヤクザの漁師としての立ち位置はハッキリしてはいるが、結局田中裕子と寝てしまって、健気な妻と子供達を犠牲にするあたり、前述のヤクザキャラが不明瞭なために筋が通っていない。
だから、この健さんはカッコ良くないのだ。
結局、この映画は、寒々しい漁師町の風景を見せることがテーマになっていて、そこは見事なロケーションで活写されている。
そして、田中裕子だ。
恐らく、あの時のベストなキャスティングだったと思う。
いしだあゆみ、田中邦衛も適材適所の役回りだったし、ビートたけしに至っては、あれは演技じゃないだろうという感じ。
この辺りが、この作品を見せる映画にしている。
さすがの高倉健
日本海に面した小さな漁港。漁師として働く修治は十五年前に大阪ミナミでのヤクザ暮らしから足を洗い、妻の冬子、三人の子供、そして冬子の母うめと一緒に静かな生活を送っていた。修治の過去の名残りは背中一面の夜叉の刺青で、冬子とうめ以外は誰も知らない。冬、ミナミから螢子という子連れの女が流れてきて螢という呑み屋を開いた。螢子の妖しい美しさに惹かれて漁師たちが集まってきた。数カ月後、螢子のもとに矢島という男がやってきた。ヤクザで螢子のヒモだ。矢島は漁師たちを賭け麻雀で誘い込み、覚醒剤を売りつけた。修治と仲のよい啓太もこれに引っかかった。修治の脳裡には覚醒剤がもとで死んだ妹、夏子の辛い思い出がよぎった。それは、シャブの運び屋がかつて修治の弟分だったトシオだったことと無関係ではない。修治は螢子にシャブを隠した方がいいと忠告、いわれた通りにした螢子を、矢島は包丁を持って追いかけた。止めに入った修治のシャツを矢島の包丁が斬り裂いた。隠し続けた背中一面の刺青がむき出しにされ、修治の過去はたちまち街中に知れ渡った。一方、螢子は矢島の子を流産してしまう。ミナミに帰りたい、そんな螢子の気持は修治に通じるものでもあった。二人はミナミという共通の過去に想いをよせて、抱き合った。その頃、矢島がシャブの代金を払えなくなりミナミに連れ去られた。螢子は、矢島を助けてほしいと修治に頼んだ。修治は若かりし頃のミナミでの修羅の数々を思い出し、うちから燃えあがるものを押さえることができなかった。ミナミにのり込んだ修治は組織から矢島を取り戻したものの、矢島はトシオに殺されてしまう。ひっそりと漁村に帰ってくる修治、そしてミナミに帰っていく螢子。列車の中で、螢子は夜叉・修治の子を身篭もっていることに気がついた。高倉健の他、田中裕子・いしだあゆみ・ビートたけしなど豪華な配役。古さを感じない作品。
夜叉<女夜叉
女たちの夜叉
背中で語る高倉健だが、今作では背中を見せられない。
何故ならその背中には…
冬の嵐吹き荒れる日本海の浜で漁師として生きる男、修治。
妻が居て子供が居て、実直で真面目で仲間から慕われているが、ある時彼の過去が明かされる。
背中に刻まれた夜叉の刺青。
大阪・ミナミの伝説のヤクザであった…。
高倉健がヤクザの世界から足を洗って約10年。
「ザ・ヤクザ」は洋画なのでちと例外として、久し振りにヤクザの世界に戻った本作。
フリーになってからのスタイルである武骨で不器用な漢。
かつて星の数ほど演じてきたヤクザの侠。
その二つが合わさった、まさに高倉健の為の役柄。
海の男として浜に佇む姿も様になっているが、冒頭のミナミ時代の白帽子白スーツ姿。狙い過ぎでもあるが、やはり画になる。
修治の過去が知れ渡ると、浜でヒソヒソ噂、陰口。
元ヤクザの肩書きはさすがに誰でも怪訝するが、女の為に足を洗い、浜で暮らした15年は偽りじゃない。
妻・いしだあゆみの言葉がごもっとも。
「あの人が何をしたの」
修治の平穏を突如狂わしたのが、ふらりと浜にやって来た一組の男女。
浜で居酒屋を開いた女、螢子。
都会から来た惚れ惚れするような女の色香に修治も惑わされる。
田中裕子のいい女っぷり、ベッドでのあどけない表情に、男なら虜になってしまう。
そんな螢子には、ヤク中でギャンブラーでヒモのろくでなしが。
ビートたけしの狂演。包丁を振りかざして暴れるシーンは、演技じゃなく地だろうと散々言われたであろう。
悪行祟ってヤクザの囚われの身に。
終盤、修治は彼を助けに再びミナミへ。
ろくでなしでも、螢子は彼を…。
惚れても実らない女の為に、我が身を危険に晒せるだろうか。
それでも我が身を投じる、侠の美学。
男と女の壮絶な愛憎劇。
受け身のように見えて、しかし実は男たちを振り回し、惑わす女たちの物語でもある。
同じ男を愛したいしだあゆみと田中裕子の対峙シーンは緊迫。
田中裕子のラストカット。
女の夜叉が笑う。
ストーリーはあってないようなものです。キャストがそれぞれの絶頂期に...
昭和の演歌のような話
総合70点 ( ストーリー:65点|キャスト:80点|演出:70点|ビジュアル:70点|音楽:70点 )
冬の日本海の荒波が押し寄せる猟師町で、過去を背負った男女の愛憎劇と犯罪が渦巻く。昭和の演歌の世界のような話だが、登場人物の持つ背景や哀愁が魅力的で楽しめた。
高倉健に加えて、惚れた男に振り回されるいしだあゆみと田中裕子の2人は存在感があった。北野武がロクデナシな役を演じるが、いかにもロクデナシらしいのはいい。昭和の時代に早くも彼が高倉健と共演していたのは知らなかった。
約30年前
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