一人息子

劇場公開日:1936年9月15日

解説・あらすじ

小津安二郎がゼームス・槇名義で書き下ろした原作を自らのメガホンで映画化した、小津作品初のトーキー映画。信州の田舎町で、身を削って働きながら女手ひとつで息子を育てあげた母親。大学進学を希望する息子のため、貧しいながらも何とか学費を捻出して東京へと送り出す。ところが数年後、東京で出世しているはずの息子のもとを訪れた母親は、息子が夜学教師として妻子とともに貧しい生活を送っていることを知り、愕然とする。

1936年製作/87分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1936年9月15日

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映画レビュー

3.5100年前のリアリティを生む、小津のまなざし。

2025年7月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

⚪︎作品全体
戦前に中学まで進むのはそれだけで秀才の証なわけだし、全員が将来成功するのだろう…と思っていたけれど、現代でも超難関高校へ行った学生が全員成功しているかと言われるとそんなことはないし、戦前も戦後も地続きの世界であることを感じさせる。
御伽話でもなんでもなく、リアリティある100年前の描写に、小津作品の凄みがあった。

ここでいう「描写」とは戦前日本の舞台背景や装飾ではなくて、やはり人を描くということだ。親子であっても言いにくい本音があって、それを隠そうとする何気ない間がある。そしてそれを感じ取れる距離感…そういう場面の積み重ねが、人を作っていた。
冒頭の少年時代の主人公のシーンは象徴的だった。なんの気なく嘘を吐いた後の足元だけ見える階段、降りてきたときの主人公の表情。箪笥や障子を使った空間の狭さ。主人公の心の重さみたいなものが画面から伝わってくる。

物語に特別な出来事はない。理想ではないにしろ家族を持って東京に暮らす主人公と、もっと偉くなったものと思って小さくガッカリする母。夢に届かずとも、人生はそれだけではないということを優しく諭してくれる、普遍的な物語だ。でも、だからこそ、人の描写力は実直に出る。

この作品が小津安二郎にとって初のトーキー映画だというのだから、またすごい。
会話のテンポ感や一瞬の会話の違和感がキチンとある。だからと言って会話劇が誇張されるわけでも、足りないわけでもない。
この後に続く小津作品の妙が、この時からすでにある。

⚪︎カメラワークとか
・ランプというモチーフ。ファーストカットのランプ、少年期の主人公の家にあるランプ…モノクロの映画というのもあって光源というのはずいぶん目立つ。一人息子という一つの希望、中学校へ行く夢という名の希望。後半はあまり出てこなかったのは意図的なのだろうか。

・画面の狭さみたいなものを作るのが本当にうまいなあと思った。箪笥やなめ構図、障子…自然と人物を見ていられるような。

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すっかん

5.0息子の家の音

2025年1月13日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1936年。小津安二郎監督。監督初のトーキー作品。信州で紡績工場で働いて女手一つで息子を育てる女性は、中学校に行きたいという息子の願いを無理してかなえ、東京に送り出す。13年後、東京を訪ねてみると、息子は市役所を辞めて夜学の教師となっており、すでに結婚して小さな赤ん坊をつくって貧しい生活に甘んじていた。息子はふがいない自分を恥ずかしく思いながら親孝行しようと思うが、、、という話。
息子に期待する母親の幻滅と、親の期待に応えられなかった息子の諦めとの間に生まれる苦しい衝突が描かれる。人生を諦めている息子のふがいなさを責めながら涙を流す母親。隣人を思いやる息子の姿に触れて母親は息子の成長を感じていくが、どこか無理に自分を納得させていく様子であり、息子は母の期待に再び応えようと再度学業を続ける決意をするが、どこか無理に前向きになろうとしてようでもある。それがことさら痛々しい。苦い物語。
息子が住む家には朝夕ひっきりなしに工場の音が聞こえていて、これが息子の苦境を「音」として象徴している。この家は騒音のせいで3円安くなっているといい、東京でうまくいかない息子を責めさいなむように聞こえるのだ。息子を追い込む社会そのものの音(リズミカルで不気味)。ラストでは、母親が働く紡績工場が手工業から機械工業に変わっていることもさりげなく示されている。東京の工場と信州の工場。すでに高齢の母親は紡績に関わるのではなく工場の掃除をしていて、社会の機械化(資本主義化の進展)で人間が生きにくくなるさまが表されている。トーキーを生かした音の表現。
近所のいたずら坊主が馬にけられてけがをするシーンがあり、最終的にはこの家の困窮とそれを助ける息子の暖かい心のありかを描く物語の一部となっていくが、この子どもの描き方は全体的に重苦しいトーンを明るくしている。小津監督は子どもを描くのがうまい。

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3.5【一人息子を女手独りで育て上げた女性が東京に行った息子を訪ねる物語。貧しくとも人間の豊かな心を持った人たちを小津監督らしい、優しい視点で描いた作品でもある。】

2024年2月27日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

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NOBU

5.0息子よ母は。母よ息子は。

2023年12月3日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

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しゅうへい

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