「【凶悪犯の元恋人が吝嗇化の男の後妻として嫁いだ先の精気なき姿を刑事達が張込みで観察する静的前半と、凶悪犯と出会った生き生きとした女の変化の対比を高峰秀子さんが見事に演じた作品。】」張込み(1958) NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【凶悪犯の元恋人が吝嗇化の男の後妻として嫁いだ先の精気なき姿を刑事達が張込みで観察する静的前半と、凶悪犯と出会った生き生きとした女の変化の対比を高峰秀子さんが見事に演じた作品。】
■警視庁の下岡刑事(宮口精二)と柚木刑事(大木実)は、質屋殺しの共犯・石井(田村高広)を追って佐賀行きの列車に乗る。
石井は、3年前上京の時に別れた女、さだ子(高峰秀子)に会いに行ったのである。2人は、今では吝嗇化の男の後妻となった地味に生きるさだ子を見張るため、猛暑の中で対面の宿の二階で六日間、張り込みを続ける。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・前半は、殆ど動きがないのだが、何故か面白いのである。それは、下岡刑事と柚木刑事が、宿に耕作機器の営業マンと偽り、投宿する際の宿の女将や女中との遣り取りが、年代的に新鮮である。(二人が食事の際には必ず女中が付き、夏なので団扇で扇ぎながら何ともない世間話をしているのだけなのだが・・。昔の宿屋はこんな感じだったのだな。)
・又、二人の刑事が向かいの平屋に後妻で入ったさだ子の、判で押したような単調な日々と恋人が東京で待つ柚木刑事の”何て、精気のない女なんだ。何て吝嗇家の夫なんだ”というモノローグと、固定カメラで撮ったさだ子の姿も、何故だか哀しくも面白いのである。
・物語は後半にイキナリ動く。
さだ子がパターン化した行動ではなく、バスに乗り石井と野原で会うシーンの生き生きとした笑顔を浮かべて話すシーンの前半とのギャップが凄い。ここから初めて、さだ子を演じる高峰秀子さんのアップと、台詞が聞けるのである。その姿は前半で固定カメラで映された姿とは、別人であり艶っぽいのである。
そのギャップに驚く柚木刑事の表情。
・だが、二人が温泉宿に入った時に下岡刑事と柚木刑事は、温泉客を装い、石井を逮捕するのである。そして、柚木刑事はさだ子に帰りのバス代を渡し、”今だったら、旦那さんが帰る時間に間に合う。”と言うのだが、さだ子は旅館の欄干に凭れて泣き崩れるのである。そして、柚木の”この女は、この数時間だけのために生きて来たのだ。そして、明日から又、あの単調な日々に戻るのだ。”と言うモノローグが流れるのである。
<そして、二人の刑事は石井を東京に護送する列車を駅で待つのだが、その間に柚木刑事は恋人に電報で”ケッコンスル”と、打つのである。
今作は、凶悪犯の元恋人が吝嗇化の男の後妻として嫁いだ先の精気なき姿を刑事達が張込みで観察する静的前半と、凶悪犯と出会った生き生きとした女の変化の対比を高峰秀子さんが見事に演じた作品であり、構成も大変に面白い作品なのである。>
■私は、物理的に高峰秀子さんの出演映画を映画館で観た事はない。出演映画も、配信で数作観ただけである。
だが、私は高峰秀子さんが生前書いた多数のエッセイの愛読者である。ほぼ全て読んでいる。その文章は幼少期から名子役として映画界で確執の在った義母たち多数の親戚の食い扶持を一人で稼いできた中で磨かれた、人間を見る鋭い観察眼に溢れつつ、且つ高き品性を保っているからである。
又、夫の松山善三氏とハワイに別宅を持ち、日本、世界を旅した旅行記も面白いのである。そこでは夫を”ドッコイ”などと表記しつつ、夫を労わる姿が満ちているのである。立派な女性が居たモノである、と彼女のエッセイを読むたびに思うのである。
ハワイに別宅があったのですか。
ハワイの日系人の映画に出たのも、そういう理由があったのでしょうか。
高峰秀子がちょっとだけ踊るシーンもあり、けっこう様になってました。