劇場公開日 1977年6月18日

「日本人とは何か」八甲田山 ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5日本人とは何か

2025年5月3日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

怖い

難しい

「天は...天は我々を見放したッ!」

日露戦争開戦前夜の1902年1月、来るべきロシアとの戦いと、津軽海峡および陸奥湾封鎖に備え雪中行軍訓練が行われる。徳島大尉(演:高倉健)以下精鋭26名の弘前第三十一連隊は弘前から十和田湖を迂回し、八甲田山を抜けて青森に至る10泊11日のルートを計画、対して青森第五連隊は神田大尉(演:北大路欣也)以下小隊編成によって青森〜八甲田山〜八戸に至る2泊3日のルートを計画し、両名は八甲田山近辺での交差を誓う。しかし青森第五連隊・山田少佐(演:三國連太郎)は事前演習での好結果とメンツの問題から、大隊本部付総勢210名での雪中行軍を神田大尉に指示。当初は神田大尉の指揮に介入しないと明言したものの、行軍開始早々に介入するようになり、やがて史上最悪の雪山遭難事故「八甲田山雪中行軍遭難事件」が幕を開けるのだった...。
午前十時の映画祭15にて鑑賞。
よくぞここまでの画をフィルムに収めてくれた。良くも悪くも日本人というものの姿がこの約3時間に凝縮されている。興味深いのは、「日本の男」を体現してきた高倉健が本作では珍しく日本人らしからぬ厳格さと合理性を兼ねた存在を演じている点である。その代わり、悪い意味での日本人らしさによって北大路欣也が大ババを引くことになった。三國連太郎が終始行軍をかき乱し、青森第五連隊の指揮系統は複数に分岐、加えて命令は朝令暮改であるにも関わらず、神田大尉も真面目すぎてなかなか直言が出来ない...日本型組織の典型的な負けパターンである「現場に無知な上層部の介入による混乱」が嫌というほど描かれており、いち会社員である自分としても色々なことを思い出して頭が痛くなった。自分が神田大尉の立場だったら、恐らく山田少佐は止められなかっただろう。
製作にあたっては青森県が全面協力しているが、現地の人々に本作はどう映ったであろうか?両連隊の対比を明確にするために、描かれなかった負の側面がひとつある。劇中、徳島大尉が現地の道案内の村民(演:秋吉久美子)に対して、行程完了後に敬礼で見送る場面がある。しかし実際の福島大尉(映画では徳島大尉に改名)はほとんど村民を顧みなかったことが後の関係者の証言で明らかになっている。村民もまた、今回の訓練で凍傷となった者が多数いたが、軍からはほとんど金銭的な手当もなく、むしろその事実は伏せられた。現実には両連隊ともそれほどキレイな話ではなかったのである。そこに蓋をしたのは、いくら話の進行上やむを得なかったとはいえ罪作りに思えた。
劇中あまりに雪山の風景が続くので、時折津軽の四季の風景が挟まれる。雪国の四季といえば、例えば「ドクトル・ジバゴ」などでもフィルムに収められているが、比較にならないほど本作の映像詩は琴線に触れる。悲しい事故の裏に日本人の根底を垣間見た。

ストレンジラヴ
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