橋のない川(1992)

劇場公開日:

解説

美しい四季の風景の中で、明治から大正時代を、人間の尊厳をかけて激しく生き抜いた人々の生活を描いた住井すゑ原作の映画化。脚本・監督は「うれしはずかし物語」の東陽一。共同脚本は「あーす」の金秀吉。撮影は「咬みつきたい」の川上皓市がそれぞれ担当。

1992年製作/139分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1992年5月23日

ストーリー

1908年(明治41年)奈良・小森で生まれ育った畑中誠太郎と孝二の兄弟。日露戦争で父親を亡くした二人は、ぬいというしっかり者の祖母と、ふでという心やさしい母に育てられた。被差別部落である小森の子供たちは教員や級友からことごとくいじめられていた。1912年、11歳になった孝二は明治天皇の葬儀の夜、級友のまちえに淡い恋心を抱くが、それははかなく崩れ去ってしまう。孝二の従兄妹の七重は、孝二に恋心を抱いていたが、その一方で自分の子供が被差別部落の子としていじめられるのを恐れていた。そして孝二の気持ちがいつまでもまちえから離れないことを知った七重は、やがて同じ被差別部落の青年との結婚を決める。一方、ふでは隣家のかねの従兄弟・伊勢田と心の中だけで愛し合うようになる。ぬいだけはそのことを知っていたが、その愛が実を結ぶには2人の境遇があまりにも似過ぎていた。1918年、米屋で働いて8年が経ち、21歳になった誠太郎。米騒動の大混乱の中で、米屋の主人・安井の娘あさ子は「父がどんなに隠していても自分が被差別部落民の子であることは、子供の時から知っていた」と誠太郎に語り、ふたりの距離は一気に近づいていく。そのころ、孝二は差別の廃止と人間愛を訴えるため創立された『水平社』に参加。だが、七重の祝言を前に、彼女の夫になる青年と共に孝二は警察に逮捕される。七重は「うち、水平社宣言と結婚するんやもん」と、花婿がいないまま結婚式をあげた。それは流れの激しい人の心の川に大きな橋をかける新しい闘いの始まりでもあった。

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映画レビュー

4.5【人間社会の差別は、人類は平等であるべき大原則に背くもの。この理念に則り、信念を貫く人々の姿を東陽一監督が正面から描く。】

2020年1月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

 原作:吉井すゑ著「橋のない川」

 この、原作を映画化するスタッフたちの気骨を感じた作品。

 <非差別部落、小森に住む畑中家の人々他>
 ・畑中ふで(大谷直子)
 ・畑中ぬい(中村玉緒)
 ・畑中誠太郎(杉本哲太)
 ・畑中孝二(渡部篤郎:今作が映画本格デビューである)

 ・峰村七重(高岡早紀)・・孝二の従姉妹で想いを寄せている。
 ・伊勢谷宗則(高橋悦史)・・ふでを想うが二人の境遇が阻んでいた。
 ・村上秀昭(辰巳琢郎)・・小森の寺の息子。後、水平社の設立に奔走する

 「橋のない川」の内容は人口に膾炙していると思われるので、当時一番印象に残った部分のみ記す。

 彼らは、旧弊に捕らわれず、人間として誇りを持って生きていた。川の向こうの人々の偏見にも負けずに・・。

 小学校の同窓会で孝二は人間に貴賤はないと胸を張って訴える。

 機運は徐々に変わろうとしていた。
 1922年 全国水平社創立。水平社宣言採択。

 孝二は小学校に差別待遇、差別的言動を廃止するよう求め、乱闘に・・。七重の婚約者も含め、逮捕される。

 けれど七重は婚約者がその場に居なくても結婚式を挙げると言う。”うち、水平社宣言と結婚する・・”

 七重が花嫁姿で凛とした表情で臨む式の屏風は、金ではなく、水平社宣言を記した物であった。

<この七重の結婚式のシーンは高岡早紀さんの美しい花嫁姿と共に、忘れ難い。この後、流れの激しい人の心の川に大きな橋を架ける闘いが始まるのだ>

<1992年5月30日 劇場にて鑑賞>

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NOBU

4.0島崎藤村の「破戒」

2018年11月14日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 以前からずっと読みたかった原作本、ついに読むことができずに先に映画を観る。部落差別問題は自分の身近にないため実感が沸かなかった問題なのだが、現在でも続いている差別は重要な社会問題である。もっと取り上げられるべきなのに、人はその問題を避けようとしている。劇中の会話で出てくる「エタ」とは上の人間が勝手に決めたもの・・・こうした重要なことはもっと映画で掘り下げてもらいたかった。

 島崎藤村の「破戒」も劇中の会話に登場するが、この主人公の丑松のような戒めをどう捉えているか、登場人物の中でも様々であることがわかる。やがて素性を隠さないで堂々と取り組むことによって「水平社」誕生へと繋がるのだ。

 映画全体として、原作を忠実に再現しようと努力はしているのだが、子供時代のストーリーが冗長部分が多くすっきりまとまっていなかったのが残念。学校の先生の考え方も伝わらず、ある程度の脚色が欲しいところだ。1969年の今井正監督作品も見たくなりました。

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kossy

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