「ある女の半生」にっぽん昆虫記 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
ある女の半生
とめの母親が村の誰とでも寝る女で、父親は知恵おくれ。彼女が生まれたときから、誰が父親かわからないと笑い者にされていたオープニングから痛々しい。
製糸工場では組合で活躍していたとめだったが、係長(長門裕之)と関係を持ってしまい、やがて会社をクビになる。
宗教団体の集まりで知り合った女の楽々という旅館で働くようになったとめ(左)は、そこが売春宿であることに気づいたときにはもう売春させられていた。そこで随分と働かされたが、警察の手入れがあってから商売は沈みがち。こっそり個人的に売春を始めて、仲間を引き連れてコールガールの元締めとなった。
友だちとなっていたみどり(春川ますみ)とは、アメリカ人との間の娘を預かっているときに死なせてしまう経緯があった。シチューの鍋をひっくり返した娘。なぜかこのシーンが印象的。だが、とめとみどりとの確執がよくわからない・・・その後、自分で鍋に手をつっこむシーンもこの伏線か?
終盤、上京してきた娘の信子(吉村実子)がとめの客でもあった老人唐沢と愛人関係を結んでしまう。恋人もいるのにこうした関係を結ぶなんて、母子3代に渡る淫蕩な性格のためか。なぜだか、その後は開拓団として恋人と仲睦まじく働いていた。お腹の子もどちらが父親なんだろうな。金銭感覚はしっかりしてるので、やはり老人の子か。
女の半生を昭和のドキュメントを流しつつ描いた作品。昆虫観察のような視点というテーマのため、主人公たちに感情移入できる内容ではなく、むしろ淫蕩な女たちがしたたかに生き抜き子孫を残す本能のみで生きていることが感じられる。昭和史の映像はオマケにすぎないが、それが逆に昆虫と同じように生きる本能を浮き出しているのだ。しかも女性視点ばかりの映像のため、男は精子を提供するだけの動物にしかすぎないことを訴えてるような気もする。
決して感動できる映画ではない。むしろ実験的な部分が目立ってしまい、脳裏に焼き付いてしまいそう。エピソードごとの静止画像や、とめの読む短歌。強烈なのは父親に乳を吸わせる左幸子。他に、ちょっとだけ春川ますみの絡み。吉村実子の相手の老人がセックス中に入れ歯がはずれるところか・・・