「例え、皇道派が実権を握っていたとしても…」動乱 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
例え、皇道派が実権を握っていたとしても…
この作品が五・一五~二・二六事件を
扱っていると知り興味を持ったが、
でも、高倉健と吉永小百合の恋愛要素が
この両事件の深みを逸するのだろうと
想像しつつ、一応観てみた。
さて、
第一部・第二部という構成については、
序章・本章とすべき印象だったが、
内容については概ね予想通りだった。
時代に翻弄された男女の物語を中心とした
スター俳優を使ったフィクション映画としての狙いは理解するが、
決起将校や真崎大将らの実名を踏襲しない
前提もあり、事件そのものへの臨場感を
得られなかったのは残念だった。
同じ事件を扱った映画は幾つかあるが、
三國連太郎演ずる北一輝が、死刑執行人の
“天皇万歳と叫ばないのか”との問いに対し、
“私は死ぬ前に
冗談は言わないようにしているのです”
と答える強烈なラストシーンの
吉田喜重監督作品「戒厳令」が
私にとっては思い出深い。
さて、この映画の最後では、
皇道派が敗れた結果、
統制派が実権を握り太平洋戦争に突入した
かのように字幕が表示されたが、
残念ながらこのクーデターが成功して
皇道派が実権を握っていたとしても
結果は同じだったと思わざるを得ない。
皇道派故に、より一層、
天皇を担いでの不敗の神国として
同じ戦争に突入し、
同じような敗戦を迎えていたことだろう。
司馬遼太郎が「坂の上の雲」で語っている
ように、どちらも内戦を抱えていた国との
日清戦争と日露戦争での偶然に過ぎなかった
勝利に過信して太平洋戦争に突入した
当時の軍部上層部の思慮の浅さに
変わりはなかったであろうから。
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