東京物語のレビュー・感想・評価
全68件中、61~68件目を表示
スタンダードでもありオリジナリティーでもある、まさに記念碑
今さら何か言うこともないくらいの名作なのですが、自分がこの作品を知るきっかけは外国人監督からリスペクトからで、初めて見たのは映画生誕100年を迎えてから。いろんなメディアでドキュメンタリーなどの企画があり、雑誌などでも100年のベスト100とかあったり─。その中で、自分が記憶しているのは世界映画ベスト100という中で「東京物語」が堂々の1位になっていたこと。日本でなく世界で。キューブリックでも黒澤明でもなく。その1位を自分は見たことがなかったので、余計に衝撃を受けたのでした。
これはいかん!ということで、どうにか見ることができて(当時は古い名画を見ることは結構大変だったような…)、それがまぁなんとつまんないこと・・・正直、なんで世界のトップなのか理解できませんでした。3回ぐらい見てようやく笑えて泣けた記憶が蘇ります。しっかりと作品そのものと向かい合うことができたとき、しみじみと作品の良さを実感できた気がします。そして、何度も見ることにより、風景や風景、社会背景などの記録的な要素としても非常に重要な作品と感じるようになり、他の小津作品も堪能してなおさらこの作品の良さとオリジナリティーも感じるようになりました。シンプルかつ何度も繰り返されるような確固たるフィックス。静寂につつまれた笠智衆の座位は、お手本のようであり、その絵を真似ようとすれば陳腐になってしまいかねない、まさに唯一無二といった印象。ほかにも、尾道とか原節子さんとか、時代を越えて影響を受けたものは計り知れないような気がします。
とまぁ美辞麗句を並べ立てなくともその評価は揺るがないわけで、その評価や色眼鏡などはなるべく無視して、この作品の真の価値を見いだすまでじっくりと鑑賞してほしいものです。学びとかではなくそのドラマをしっかりと楽しんでください。
『東京物語』
軍艦マーチのシークエンスⅡ
今まで幾度となく観る機会のあった作品だが、劇場での鑑賞は初めて。終盤の葬式が終わったあたりから、場内のそこかしこからすすり泣きの音が。私と同じく、おそらく何度も観てきたのであろうが、やはり胸にこみ上げてくるものを抑えることは難しい。
しかし、今回は全く別のことが頭の中を占めていて、隣の幸福な観客と一緒に涙を流すことはかなわなかった。
それと言うのも、「秋刀魚の味」で気になっていた「軍艦マーチ」が「東京物語」からの引用だったことが分かったのだ。分かったといっても、どちらの作品もこれまでに何度か観たことがあるのだから、どちらにも「軍艦マーチ」が出てくることは知っていたはずなのである。
ところが、小津安二郎の作品群に特徴的な自己複製を無防備に受け入れていると、似たような映画の要素の記憶が作品間で混乱してくることが多くなる。
この軍艦マーチに関しても、泥酔した笠智衆が座り込んで歌っているシーンの記憶は鮮明に残っているものの、これは「秋刀魚の味」のものだと思い込んでいたのだ。しかしこの思い違いは仕方のないことだと言える。なぜなら、どちらの軍艦マーチのシークエンスにも東野英二郎が出てきており、しかも役の名前も同じ沼田なのだ。さらに飲み屋のマダムを死んだ妻に似ていると言うくだりも同じである。
このことから、明らかに小津は「東京」でやった軍艦マーチのシークエンスを「秋刀魚」でも繰り返していると言える。
かように軍艦マーチのシークエンスを挿入することを繰り返すのはなぜだろう。小津の作品では登場人物が戦争のことについて言及することがしばしばある。この「軍艦マーチ」のシークエンスもその一つであるが、小津の映画で戦闘シーンを再現したものを観たことがない。
「戦争」というものへの「われわれ」「日本人」の記憶。この共同幻想を彼はこの軍艦マーチのシークエンスで分節化しているのではなかろうか。
日本映画初の英国映画協会の選ぶ世界第一位作品
総合75点 ( ストーリー:70点|キャスト:80点|演出:70点|ビジュアル:55点|音楽:60点 )
小津監督作品をいくつか観たが、舞台劇のように科白がかぶらないように順番を守りながら交互に言い合う不自然な演出が好きになれなくて、自分には合わないと思ってそれ以降は避けてきた。しかし「東京物語」に影響を受けたというロバート・デ・ニーロ主演の「みんな元気」がなかなか良かったので、再び小津監督作品に挑戦してみる気になった。本作品が世界第一位に日本の映画として初めて選ばれたというのも後押しになった。この作品でもやはり科白は交互に言い合うのだが、ゆったりとした雰囲気に加えて、この時代の家族の持つ距離感や礼儀というのもあってか、それは思ったほど気にならなかった。
多くのひどい家族関係を直接・間接に見聞きしている自分としては、この作品の中に大きな展開は見いだせなかった。作品中に悪人は一人も登場していないと思う。むしろある程度年齢を重ねた大人にとって、この程度のことはありきたりのことではないだろうか。それぞれが自分の生活を築き上げて今を生きれば、立場も変わるしいつまでも昔と同じではいられないのは当然。だから話に引き込まれたというほどではない。
しかし家族関係が変化しそれまであったであろう絆も微妙な関係になっていく姿を捉えてまとめあげた小津監督の巧みさはあった。そのような様子を演じる善良な老夫婦・それぞれの立場のある子供たち・優しさを見せる未亡人は存在感を見せた。映像は古い白黒なうえに建物内での撮影が多くてたいしたことはないが、そこにある見えない人間関係をうまく表現してあったように思う。家族はこうあるべきと思って上を見ればきりがないし、理想と現実は違うのだ。
色々な人生模様の家族と晩年の生活のあり様をさりげなく描いた心に残る名作
黒澤明の「七人の侍」と並ぶ、世界で高評価の本作であるが、慌ただしかったサラリーマン時代にはよく理解できなかった映画であった。定年退職して孫もできて、改めてこの気になる映画に向き合うこととした(山田洋次監督の「東京家族」鑑賞の予習も兼ねて)。
映画のペースに合わせてじっくりと鑑賞する(リマスター版)と、2時間半という長さも忘れるくらいに内容のある考えさせられる映画であった。少なくとも、多種多様の人生があり、また、色々な人生観があることだけは確かである。出演した俳優陣の演技が素晴らしく文句のつけようがなかった。平凡に見える個々の台詞にも重みがあって場面場面に味わいがあるように感じた。 戦争で家族を失う悲しさも伝わってきた。小津さんは室内シーンでは低位置のカメラアングルから上方に向けて撮影していたのが特徴的であった。家族問題は世界共通であろう。
繰り返される家族の風景
今だからこそ観てよかったです
人生で最初の小津安二郎監督作品でございます。
古き良き日本の情景を描いてる、なんて勝手に思い込んで観たらとんだ大違いでした。さらっと、はんなりと、みやびに描きながら、そこには日本人特有の薄笑い的な冷たさがあります。
これを観て、それまで見えなかった「日本人」というものがよく見えるの様になりました。あくまで耽美的に、礼儀を重んじ、そして体裁を整える。でも、そういう文化風習をもったからこその怖さってあるんですね。それは「美しい日本」かもしれないが、美しさの裏で毒が満載です。いつも健気にいる原節子がちらっと見せる影が実に怖い。
1953年っていったら、敗戦から8年ですか。経済化がここまで進んでいたんですね。戦前と戦後を生きる老夫婦は、まったく異なる時代を生きながら、いつでもにこやかに、そして礼を重んじ、そして孤独になっていく。二つの時代を生きるには、年をとりすぎていた悲劇なのでしょう。
他の小津安二郎作品も観てみたいと思いました。
全68件中、61~68件目を表示