代表作とはいえ、これ一作で小津安二郎を語るのはおこがましいというものですが、作風はなんとなくわかりますね。「PERFECT DAYS」のヴィム・ヴェンダースがインタビューで小津監督のことを話していたのも納得できる気がしました。淡々と日常を描く感じがよく似ています。
(あの映画の銭湯のロビーでうたた寝しているおじさんを主人公がうちわで扇いでやっているシーンなんかはこの作品を意識しているかもしれない)
とにかく昔の日本らしく謙譲と遠慮の精神が見られるシーンが多いのですが、子供は別ですね。まあ、長女の人はひとしきり泣いたあとは形見分けに着物をねだったり、かなり遠慮のないところが目立っていましたが。血のつながった子より、息子の嫁のほうが気を使ってくれることは実際にありうることかもしれません。
おじいさん夫婦が誰にでも愛想よく控えめに応対しているのは、子どもたちにとっては自分たちの相手をすることが仕事の妨げになることをわかっているからでしょう。もちろん、子どもたちの方もすまないという気持ちはありつつも、生きていくためには仕事を疎かにできないという現役の人間としてのやるせなさがあるのだと思います。
セリフや演技の古臭さはともかく、各登場人物の所作とか仕草は自然でとてもいい。食事している場面も結構出てきますが、ぎこちないところがまるでなくてドキュメンタリー映像のようです。あと、昔の日本らしい品の良さみたいなのはありますね。畳に座ってお辞儀するところなどは、今の我々にはなかなか自然にはできない気がします。
また、あまり昔の日本映画を見ない自分からすると、これが笠智衆か、これが原節子か、と興味深かったです。笠智衆はこの時40代だったとか。見事な老人ぶりです。原節子は伝説の女優だけあって華やかな美貌ですね。張り付いたような笑顔がちょっと気になりましたが、役柄もあるのでそれをどう判断するかは難しいところかも。