近松物語

劇場公開日:1954年11月23日

解説

近松門左衛門作の『大経師昔暦』を川口松太郎が劇化(オール読物所載「おさん茂兵衛」)し、それをもととして「忠臣蔵(1954)」の依田義賢が脚本を執筆、「噂の女」の溝口健二が監督に当る。撮影も同じく宮川一夫で、音楽は「千姫(1954)」の早坂文雄の担当。出演者は「銭形平次捕物控 幽霊大名」の長谷川一夫、「母の初恋」の香川京子、「君待船」の南田洋子、「新しき天」の小沢栄の外、進藤英太郎、田中春男など。

1954年製作/102分/日本
配給:大映
劇場公開日:1954年11月23日

あらすじ

京烏丸四条の大経師内匠は、宮中の経巻表装を職とし、町人ながら名字帯刀も許され、御所の役人と同じ格式を持っていた。傍ら毎年の暦の刊行権を持ちその収入も大きかった。当代の以春はその地位格式財力を鼻にかけて傲岸不遜の振舞が多かった。その二度目の若い妻おさんは、外見幸福そうだったが何とか物足らぬ気持で日を送っていた。おさんの兄道喜は借金の利子の支払いに困って、遂にその始末をおさんに泣きついた。金銭に関してはきびしい以春には冷く断わられ、止むなくおさんは手代茂兵衛に相談した。彼の目当ては内証で主人の印判を用い、取引先から暫く借りておこうというのであった。だがそれが主手代の助右衛門に見つかった。彼はいさぎよく以春にわびたが、おさんのことは口に出さず、飽く迄以春に追及された。ところがかねがね茂兵衛に思いを寄せていた女中のお玉が心中立に罪を買って出た。だが以前からお玉を口説いていた以春の怒りは倍加して、茂兵衛を空屋に檻禁した。お玉はおさんに以春が夜になると屋根伝いに寝所へ通ってくることを打明けた。憤慨したおさんは、一策を案じて、その夜お玉と寝所をとりかえてねた。ところが意外にもその夜その部屋にやって来たのは茂兵衛であった。彼はお玉へ一言礼を云いにきたのだが、思いも寄らずそこにおさんを見出し、而も運悪く助右衛門に見つけられて不義よ密通よと騒がれた。遂に二人はそこを逃げ出した。琵琶湖畔で茂兵衛はおさんに激しい思慕を打明けここに二人は強く結ばれ、以後役人の手を逃れつつも愛情を深めて行った。以春は大経師の家を傷つけることを恐れて懸命におさんを求めた。だがおさんにはもう決して彼の家へ戻る気持はなかった。大経師の家は、こうして不義者を出したかどで取りつぶしになった。だが一方、罪に問われて刑場へと連れられるおさんと茂兵衛、しかしその表情の何と幸福そうなこと--。

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映画レビュー

4.5 オールドレンズよ永久に

2025年9月13日
PCから投稿

一つひとつのエピソードは淡く、ストーリー展開もゆるやか。さらにワンシーンごとの描写が非常にじっくりしているため、上映時間は102分でありながら、もっと長く感じる。溝口健二の作品はだいたいそうだ。『雨月物語』『西鶴一代女』も同じようにテンポは遅いが、その中では本作が最も短く、物語も比較的整理されていて、まだ観やすい方だろう。

ただし、ストーリーを追って「楽しもう」とする映画ではない。むしろ「映画という芸術が持ちうる表現」を味わう作品である。二時間を切る長さではあるが、途中で一度休憩を入れて観るのも悪くないかもしれない。

本作の芸術的な素晴らしさの一つは「セット」にある。溝口はセットに徹底的にこだわり、巨額の費用をかけて緻密で重厚な舞台を作り上げた。黒澤明が「日本で初めてセットに本気で取り組んだのは溝口だ」と尊敬を込めて語ったのも納得できる。

もう一つの魅力は「カメラ」だ。溝口はセット作りに力を注ぎすぎたのか、カメラワークについてはほぼすべて宮川一夫に任せていたという。結果として、この映画はまるで宮川一夫の作品のように、全てのカットが美しい。

現代では残念ながら、こうした映像はもう撮れない。なぜなら当時使われたような「味わいのあるレンズ」が現代では作られていないからだ。今のレンズ市場は「いかに明るいか」「いかにスペックが高いか」といった基準ばかりで競争しており、味わいや奥行きを表現するための開発はほとんど行われていない。かつては「レンズの面白み」こそが商品価値だったのに、今は大衆に迎合する形でその精神が失われてしまった。

そうした時代背景を考えると、この映画に刻まれた映像は、単なる物語映画ではなく「二度と再現できない芸術の記録」としての価値を持っているのだ。

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KIDOLOHKEN

3.5 溝口監督作であるが、出演俳優に魅力を感じることができず、かなり物足りない。

2025年9月12日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

癒される

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Kazu Ann

5.0 溝口健二の代表作の一つで心中物の代表作

2025年8月23日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:その他、映画館、TV地上波

悲しい

知的

ドキドキ

溝口健二監督の作風はかなり特殊で長回しを多様します。
物語のテンポはかなりゆったりしてします。
説明的なものがなく、鑑賞者は映像から登場人物や時代背景や舞台というかどんな場所での話しか自分で解釈する必要があります。現代日本の若い人は説明的な映画に慣れてるし、描いている時代が江戸時代の京都の商家の話しです。
話の展開に置いてきぼりされてしまうかもしれません。
慣れれば溝口の描く世界を堪能できます。
溝口の作品や作風は海外の監督に影響を与えました。
今でも影響を与えていると思います。
人物造形や関係の変化の描き方、ちょっとした選択で人の人生が変わるという事が溝口の作品に多いのはやはり昭和の前半は生きにくい時代だったからだと思う。
美しさや誇りを描き、人の卑しさや醜さを描ききるのが溝口の世界で、この映画はマイルドなほう。
出演者は脇役まで豪華です。長谷川一夫、香川京子
南田洋子、進藤英太郎、小沢栄太郎、浪花千栄子、十朱久雄
映像が美しく、撮影は宮川一夫さんです。
感情の昂ぶりの表現力を感じます。戦前の作品は淡々としてえぐかった。分かりやすくしたのだと思う。

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Kenku

3.0 三角関係以上

2025年5月25日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

男と女の何ともややこしい物語でした(汗;)。一番悪いのはおさん(香川京子)の兄・道善(田中春男)だと思うのですが、そのとばっちりを受けるのが何の落ち度もないおさんや茂兵衛(長谷川一夫)であり、お玉(南田洋子)ではあるけど、そこにはそうしたくなる想いもあって、ある種の泥沼にはまっていくわけです。己の信念を貫くことで真の幸せを掴むという話でもありますが、果たして本当に最善の選択だったのか、そんな疑念も残るような、一筋縄ではいかない面白さのある作品でした。

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赤ヒゲ