秋刀魚の味(1962)

ALLTIME BEST

劇場公開日:1962年11月18日

解説・あらすじ

名匠・小津安二郎の遺作となった作品。老いと孤独をテーマに、妻に先立たれた初老男性と結婚適齢期を迎えた娘の心情を、ユーモラスかつ細やかに描き出す。サラリーマンの平山周平は妻に先立たれ、長女・路子に家事の一切を任せて暮らしている。友人に路子の縁談を持ちかけられても、結婚はまだ早いと聞き流してしまう。そんなある日、中学の同窓会に出席した平山は、酔い潰れた元恩師・佐久間を自宅に送り届ける。そこで彼らを迎えたのは、父の世話に追われて婚期を逃した佐久間の娘・伴子だった。それ以来、平山は路子の結婚を真剣に考えるようになり……。父を笠智衆、娘を岩下志麻が演じる。2013年には松竹と東京国立近代美術館フィルムセンターの共同作業によってデジタル修復され、第66回カンヌ国際映画祭クラシック部門でプレミア上映された。

1962年製作/113分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1962年11月18日

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(C)松竹株式会社

映画レビュー

5.0 秋刀魚はどこに存在する?

2024年4月19日
PCから投稿
鑑賞方法:その他

悲しい

小津安二郎監督作品。傑作です。
今までみてきた小津作品の中で一番好きかも。遺作であるし、映画美の極致をいった作品のように思う。

構図や場面の反復によって、同じく現れるものは、人間の普遍的な営みとして昇華され、差異は人の感情の移ろいや不在を見事に描いている。

最後のシーンがとても胸にくる。長女の路子(岩下志麻)を嫁がせた父の周平は、酔っぱらって一人寂しく家に帰る。そして酔い冷ましに台所で水を飲むのである。周平はかつて次男の和夫にいった。これからは一人でなんでもしなくてはいけないと。そして現在、周平は路子が不在の家で、これから一人でなんでもしなくてはいけないのである。この不在の描き方と嫁がせた父の孤独はひどく胸に刺さる。

まだまだ映画の細部に目が届いていない。これからも何度も観たい作品である。

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まぬままおま

3.0 娘を嫁がせる父親の想い

2025年8月20日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

娘にとって父親は最初に出会う異性とも言われますけれども。
反面、世の大方の父親にとっても異性の子娘)というのは、特別な存在なのかも知れないとも、評論子は思います。
(こう言うと既婚の息子には叱られるかも知れませんが、評論子の身で思い起こしてみ、娘を嫁がせるときは、息子に嫁をとらせたときとは、また違った感慨が、あったと思います)。

別作品『秋日和』のレビューでも書かせてもらいましたが、本作の製作当時の昭和30年代(昭和37年)は、まだまだ女性の社会進出がなっていなかった時代。
女性の社会的な交際範囲はまだまだ狭く、縁談は、本作のように周囲の人々の「お膳立て」(良く言えば好意、悪く言えばお節介)で成り立っていた社会情勢だったことでしょう。
(むろん、スマホのマッチングアプリなど、理想の相手の存在を、適齢期の女性が自分で見つけ出して来ることは、社会的に難しかったのだろうとも想像します)

かてて加えて、女性の経済的地位がまだまだ高くはなかった本作の製作当時の時代(男女で平均賃金を求めると、男性のそれの方が高く出る令和の今でも、女性の経済的地位が充分に高くなったとは必ずしも言えないことは、ひとまず別論)。
良縁に恵まれるかどうかは、女性の側では、生活面(経済面)では、令和の今よりも、もっともっと切実な問題だったのではないかとも、評論子は思います。

そして、本作の周平は、早くに連れ合いを亡くし、父一人、子(娘)一人で暮らしてきた間柄―。

本作のタイトルが「秋刀魚の味」とされていることについては、レビュアーの皆さんの間に受け止め方がいろいろとあるようですけれども。

しかし、評論子としての受け止めは、紆余曲折の末、無事に娘を送り出した父親の心境は、まさに旬を過ぎて味わう秋刀魚の味」のように、まるで脱け殻か何がのように、気が抜けてしまうものなのだろうと、評論子は思います。

そして、路子ヲ嫁がせた周平の胸中ては、今更のように、自分の「老い」を実感したこととも、評論子は思います。

本作は、名匠・小津安二郎の遺作となった作品とのことですが、これも「家族のあり様(よう)」を描いた一本としては、名匠の名に相応しい佳作だったと、評論子は思います。

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talkie

4.0 映画終活シリーズ

2025年3月12日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

単純

1962年度作
小津安二郎監督の遺作
岩下志麻さんホント綺麗で、演技上手い‼︎
テーマは同じでも原節子さんの印象が強くて
損してるかな

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あきちゃん

4.5 今まで見た小津映画で一番よかった笠智衆

2025年2月3日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

悲しい

「秋日和」とほぼ同じメンツのおじさんトリオが出てきて「秋日和」よりもっとえげつない話をするのがとっても気持ち悪くて嫌だった。そこに彼らの出身校の漢文教師を迎えての四十年ぶり同窓会が挟まることで、娘を嫁にやるやらないの切なさと問題点がシビアに浮き上がる。きっかけとなったのは漢文教師の娘(杉村春子)。母を亡くし、主婦として家を回し教師の父親を支え、父親の退職後は町中華の店を父とともに切り盛りしている。ほんの少しの出番なのに、杉村春子は父ゆえに婚期をのがした娘を背中で、表情と佇まいで素晴らしく表現している。

結婚させるべき当事者は平山(笠智衆)の娘の路子(24歳)で岩下志麻が演じている。気が強くも優しくて我慢強い。路子には兄がいてその妻役は岡田茉莉子。この映画でも岡田茉莉子は優しくもあり気が強くもありいずれにしても頼もしい。その夫(路子の兄)は佐田啓二が演じている。今まで見た小津映画で一番出番が多く長いので、中井貴一と如何にどこが似ているのかたくさんわかった気がした。セーターを肩に羽織るシーンは「お早よう」にもあった。とにかくお洒落で品のある素敵な俳優。

バーのママの岸田今日子が可愛らしく、平山も亡き妻に似ている気がしていて気に入っている。そのバーに連れて行ってくれたのは、漢文教師の町中華で偶然会った、戦中、同じ海軍の部下だった人(加東大介)だ。軍歌を聞くと聞いていけないもののような気分に私はなる。実際に戦争に行き生還してきた人にとってはどうなんだろう?

娘役の岩下志麻は父親の言うことを聞いて結婚する。家で支度した白無垢姿は美しい。でも白無垢姿にはどうしても悲しさと涙がつきまとってしまう。その瞬間から式と披露宴が始まり仲間との二次会から抜け出すまで常に知っている誰かが側に居たに違いない父の笠智衆。「亡き妻に似ている」ママのバーに寄って少しだけ一人になる。自宅に戻り自分を待ってくれていた長男夫妻(佐田啓二&岡田茉莉子)に挨拶して帰らせ、同居のまだ若い次男には寝るように言う。やっと一人になった。かなり酔ってふらつき一人佇むお父さん。お父さんは泣いてない、でも私は涙が止まらなかった。小津の映画で笠智衆がこれだけ素晴らしい演技をしたのは最初で最後なのではないかと思った。

おまけ
1)結構びっくりしたのは、妻を亡くしてから随分と年下の女性と再婚した友達に対して平山(笠智衆)が「不潔だ」と言い放ったシーンだ。小津安二郎の映画ではあまり聞かない言葉のような気がした。
2)「彼岸花」でもそうだったように、この映画でも「ちょいと」という言葉がたくさん何度も使われていた。東京のことばという感じで楽しく嬉しかった。

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talisman

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