「北野作品初期にある静謐と衝動が、やっぱり良い。」3-4x10月 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
北野作品初期にある静謐と衝動が、やっぱり良い。
◯作品全体
初期の北野作品にある静謐と衝動が好きだ。
移動してるとき、何かを見てるとき。小さな動きはあれど言葉はなく、街やその場の雰囲気に同居しているような感覚。BGMはもちろん流れず、環境音だけがある。日常ではごくありふれたものでも、映像作品になると独特、という語り口になるのは身近にある静謐を切り取るということが、ヘタをすると冗長になってしまうからだろうか。本作における静謐も確かにそう感じる時間はあったが、唐突に訪れる非日常の衝動がぼんやりした作品にしていない。
無口な雅樹がヤクザの難癖に殴りかかる場面や井口の反撃、上原の衝動的な行動やラストのトレーラー突撃…草野球や浜辺野球の合間に挿入される瞬発力ある暴力的な演出が、日常の間にある衝動的な攻撃性を刺激的に伝えてくる。日常が静謐だからこそ、さらに強調されている気がして、静謐と衝動、その演出の両立が素晴らしかった。
妄想オチというラストだが、トイレの暗闇の中でぼんやりと考える狂気は、それこそ静謐と衝動の極地のように感じる。雅樹の内に潜んだその二つの描写が、妄想であることで逆にリアルに感じられた。
◯カメラワークとか
・スナックで大友組のヤクザに襲いかかる上原と玉城のシーン。一回襲ったあとカットを割らずに上原に画面が寄っていって再びヤクザに襲いかかる。最初は2回襲ったのかと思ったら同一カットで別アングルから見せるカットだったぽくて、すごいアイデアだった。
◯その他
・北野作品に出てくる登場人物で一番怖いのは女性キャラかもしれない。考える力がないのか、あえて何も考えてないのか。なんでその場にいて、落ち着いちゃってるんだろうっていうキャラクターが多い(サヤカは雅樹にとって理想的すぎるから除くとして)。元々心に傷があるような女性しか出てこないからか。