「溝口健二監督の戦後作品の最高傑作。」西鶴一代女 グスタフさんの映画レビュー(感想・評価)
溝口健二監督の戦後作品の最高傑作。
戦前の「祇園の姉妹」に比肩する溝口健二の傑作であり、日本映画を代表する小津安二郎監督の名作「東京物語」に並ぶものです。公開当時絶賛されなかったのが私には全く理解できない。晩年の名作群が映画発祥の地フランスで高く評価されるようになってから、漸く後年日本でも正当に扱われるようになりました。私の好きな溝口作品のベストは、これに「祇園の姉妹」と「近松物語」が並び、「残菊物語」「雨月物語」「山椒大夫」と続きます。
お春が体験する人生流転の数々の逸話を歴史絵巻の如く映画に織り込んだ重厚な脚本が素晴らしい。様々な男たちに翻弄され、不運な境遇に打ちのめされても、しぶとくしたたかに生きるお春。時代や社会の制約があるとは言え、そこに男と女の凝縮された形と姿が象徴的に描かれている。その経験をともにした男たちを羅漢堂に並ぶ仏像に比喩して懐かしむ女の凄さ。江戸松平家のお部屋様から夜鷹までを全身全霊で演じる田中絹代の渾身の名演が圧巻です。そして、冷徹に突き放し見詰める溝口監督のリアリズム演出がすべてを纏め上げます。女性崇拝の普遍性に到達した溝口監督の力的傑作。
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