五人の斥候兵

劇場公開日:

解説

荒牧芳郎が高重屋四郎(田坂具隆の変名)の原作を脚色し、「湖の琴」の田坂具隆が監督した戦争もの。昭和十三年日活多摩川映画製作。

1938年製作/78分/日本
劇場公開日:1938年1月7日

ストーリー

ここは北支戦線の一拠点、つい前日まで激戦が展開され岡田部隊が半数もの精鋭を失ったところである。岡田部隊長は歩哨の配置を終えると兵に休息を与えた。岡田は安田伍長や藤本軍曹と陣中日誌を見返しながら、激戦の跡を語りあった。翌朝、正木一等兵ら負傷兵を収容するために病院車が到着した。正木は右手に貫通銃創を受けていたが後送をいやがった。岡田部隊長が本隊から伝令を受けたのは、正木らを送りだした直後だった。岡田は早速藤本軍曹を長とする五人の斥候兵を前面の小範村付近の敵状捜査に派遣した。平坦な草原を抜け、川岸に出た五人は、対岸に多数の中国兵を発見して緊張した。そこにはトーチカ、塹壕、歩哨線が発見された。それらの位置を確認した藤本は一番早く隊に戻った者が報告するよう命令した。その時、木口一等兵が背後に敵兵がいることを発見、包囲されていることを知った。藤本軍曹は、戦友にかまわず一刻も早く本隊に報告せよと命令して、窪地から飛びだした。本隊の岡田部隊長は五人の帰隊が遅いのを心配していた。そんなところへ、まず藤本が帰り状況を報告しつづいて長野が、そして遠山と中村が生還した。中村は心配のあまり木口と離れた場所に戻り鉄兜を持ち帰って来た。やがて部隊に不安と焦りの色が濃くなった。そのうち雨が降りだし視界はとだえた。たまりかねた中村と遠山は木口捜索の許可を願い出たが、総攻撃の前に私事は許されなかった。そんな折、本部から伝令がきた。岡田部隊は明朝五時、右翼の石原部隊、左翼の山根部隊と連繋をとり敵陣を占拠せよ、というものだった。やがて雨がやみ、視界がはっきりしてきた時、泥濘の中をふらふらしながら近づいてくる者がいた。木口だった。木口は、鉄兜を失くしましたと報告したが、中村によって持ち帰られたと聞くと疲労を忘れたかのように喜んだ。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.5日本兵の日常と心情

2024年2月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

単純

興奮

 戦後の戦争映画は結構見ましたが、戦中の戦争映画というのは初めて見ました。戦中の映画ですから傍から見たような悲惨さや愚かさは描かれておらず、さりとて作中の人物がとり立てて英雄的な行動を見せるわけでもなく、5人が斥候に出るシーンにアクション的要素がある他は淡々と兵士の日常と心情が描かれています。描写の完成度は高いです。
 ただ気になるのは作中では村を占領したのに中国の民間人は一切出てこないということです。メインテーマである兵隊たちの日常を描くのに邪魔だから消したのかもしれませんが、やはりどうしても描けなかったのかもしれないとも思えました。
 あと兵隊たちの休憩中はともかく、作戦中の優秀さは戦後の映画ではなかなか見ることができない実際の精鋭部隊の様子を映す貴重な場面と思います。伝令の復唱などあれほど見事にできるものなのでしょうか。私などは間違ってビンタを喰らいそうです。

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FormosaMyu

4.0「戦場の現実は、戦場に出た者にしか分からない」

2022年4月22日
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so what

3.5前進と後退のクライマックスにある映画美と田坂監督のジレンマ

2020年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

戦意高揚の醜さと国威発揚の美しさを兼ねた、危うい時局の日本映画。この田坂作品には、”戦争と人間”についての感慨なしでは論じることが出来ない、とても深刻で抜き差しならない映画制作の状況が迫って来る。上官の命令通りに人殺しを遂行する兵士を、戦争のかっこよさとして描けば扇動的なメッセージしかなく、映画が単なる情報に堕ちていく。それを避けるためには、兵士一人ひとりの人間本来のまなざし、吐息、言葉を映像美に昇華させなければならない。それが作品の主軸になれば、戦争の愚かさを訴えかける普遍的な表現芸術になりえるのではないだろうか。この作品には、それがある。ある村落を占拠し駐屯した部隊の軍内部の描写が、人間の営みとして説得力を持っている。勿論ショットがひとりの兵士をクローズアップすれば、日本国の為に命を捧げる主張が語られるし、追い詰められたまなざしが戦争の残酷さを物語る。また部隊長が見せる戦いに挑む男の意地は、戦意高揚の何物でもない。登場人物を温かく見詰める田坂演出が、それを強調しているのも確かだろう。

五人の斥候兵の敵の情勢を調べる前進と後退の移動撮影のクライマックスが、そのまま戦争映画に挑んだ田坂監督のジレンマを具象化したような感慨を抱かせて、危険な映画と身構えていたにも関わらず、不覚にも感動を覚える。軍国主義に凝り固まった部隊長に飽きれ果て軽蔑しても、実直な日本兵士の犠牲的な姿を憂国の精神で描く演出の素晴らしさが勝った映画美は、素直に認めたい。

戦前の大作「土と兵隊」と、この「五人の斥候兵」は、戦争と日本人の歴史をもう一度客観的に見直す遺産として推奨するが、実は田坂監督では「爆音」「路傍の石」が好みであり、特に「路傍の石」は日本映画の傑作と評価している。

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Gustav