告訴せず
劇場公開日:1975年2月1日
解説
金権選挙を取りまく人間の醜い欲望とうずまく黒い霧の中で抹殺された一人の男の哀歓を描く。原作は松本清張の同名小説。脚本は「華麗なる一族」の山田信夫、監督は「王将(1973)」の堀川弘通、撮影は福沢康道がそれぞれ担当。
1975年製作/90分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1975年2月1日
ストーリー
岡山県A市から衆院選に立候補している木谷芳太は、当落の瀬戸際にいるため派閥を裏切り、反対派のボスから資金三千万円を調達した。そしてその金の運搬を、妹・春子の亭主で、食堂を経営させている婿養子の省吾に依頼した。だが東京で金を受け取った省吾は、その金を持逃げした。それは今まで木谷に顎で使われ、女房からも馬鹿にされてきた愚直な男の反抗でもあった。「福山誠造」と偽名し、東京から伊香保温泉へ逃れた省吾は、旅館の女中、お篠を知った。ある日、旅館に盗難事件が起き、警察は省吾の三千万円の出所を追求した。だが、選挙に当選した木谷は省吾を告訴できず、両者は無関係を主張した。再び東京に出た省吾は穀物仲買人「平仙」を訪ずれ、千三百五十万円を小豆相場の「買い」に張った。省吾の水際だった投資ぶりに「平仙」の山脇営業主任は、外務課の小柳を省吾の係りに指名した。客溜りの大場老人は、そうした省吾の一部始終と彼の岡山訛りに注目していた。そして、もう一人の男も……。三ヵ月後、小豆の相場は四千五百万円にまで上っていた。足繁く省吾の家を訪ねた小柳はいつしかお篠と親密な間になり、彼女にモーテルの経営をすすめた。やがて小豆生産地の北海道が突然の天候異変でダメージを受けたために、相場は一拠に高騰し、省吾の手に二億四千万円の金が入った。省吾はお篠に内緒で各六千万円を四つの銀行に預けた。お篠はモーテルの経営に本腰を入れはじめた。省吾は土地や建物を法的に登記できないために不動産業・森山の紹介で一億二千万円の中古モーテルをお篠の本名浜島シノ名義で手に入れた。モーテルが開店の日、省吾は数々の花輪の中に衆議院議員・木谷芳太の名を発見して驚愕した。「福山誠造」が木谷省吾であることは、お篠も、小柳も知らない。省吾の頭に大場老人の顔が浮かんだ。だが、もう一つの黒い影が彼を見つめていることを気づかない。モーテルの繁盛を尻目に省吾は売却を急いだが、その行動は森山からお篠に連絡されていた。数日後、モーテルの一室から出火した。省吾は何者かに非難バシゴをはずされ地上に落下した。そしてある殺意を感じ恐怖に襲われた。しかも、一週間後に退院すると、お篠は「福山誠造」の改印届を出し、五千万円を銀行から借りていた。さらに東京に預けてあった一億二千万円の預金も完璧に略奪されていた。だが、戸籍も身分証明もない省吾には、詐欺にかかったことを告訴することができない。省吾はお篠と小柳の行方をつきとめたが……そこには二人と談笑する大場老人と、お篠を影であやつっていた影の男--伊香保の元刑事の姿があった。数日後、東京のある川に、一人の男の水死体が上った。男の洋服には「福山」の印鑑が入っていた。死体は他殺の疑いもあったが、結局、自殺として処理された。