アパートの鍵貸しますのレビュー・感想・評価
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【生涯ベスト5・第2位】何度観ても感動できるラスト
1960年公開、アメリカ映画。
原題は『The Apartment』
【監督】:ビリー・ワイルダー
【脚本】:ビリー・ワイルダー、I・A・L・ダイアモンド
主な配役
【鍵を貸して出世する C・C・バクスター】:ジャック・レモン
【部長の愛人 フラン・キューブリック】:シャーリー・マクレーン
【シェルドレイク部長】:フレッド・マクマレイ
1.少し残念だが、すでに名作認定されている。
私だけが認めた、私だけの名作にしておきたいが、
世間はそれを許さないようだ。
アカデミー10部門ノミネートされ、5部門(作品、監督、脚本、美術、編集)で受賞した。
主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞いずれもノミネートに留まったのは不思議だ。
2.邦題に拍手
原題は、単に『The Apartment』だが、それを
『アパートの鍵貸します』とした。
素晴らしい。
当時まだ少なかったが、邦題も『アパート』で通じたはずだ。
もちろん、今と違って当時は、
どれだけ客を呼べる邦題をつけられるか、競い合ってたような空気もあるので直訳はありえなかっただろう。
だが、
私に言わせると史上最悪の邦題『パットン大戦車軍団』のような、「ちゃんと観たんか?」級の駄作もあるので、本作の邦題は💮なのだ。
『アパートお貸しします』でも『アパートの鍵』でもなく、『アパートの鍵貸します』って、センス良すぎ。
3.アイデアとキャスティング
まず、あえて白黒作品としたアイデア。
男女の物語を白黒にしたことで、よりロマンチックでノスタルジックな雰囲気が出せてる、と私は思うし、
「ぼろアパート感」を出しながらも、不潔には感じない絶妙な舞台設定ができている(と思う)。
それでいて、まるでカラー作品を観ているような色彩感はある。魔術のようだ。
(超絶好きな作品であるが故に、自己催眠がかかっているとも言える笑)
ビリー・ワイルダー監督は、『お熱いのがお好き』に出演したジャック・レモンを気に入り、もう1本撮りたいとなったこと。
※本作で有名な、テニスラケットをスパゲッティのざるとして使う場面の鼻歌はジャック・レモンのアドリブ。
◆サラリーマンの悲哀
◆お人好し三枚目の雰囲気
顔はまったく似てはいないが、渥美清のように人を惹きつける魅力がある。
ビリー・ワイルダーは、
ダブル不倫を描いてヒットした『逢いびき(1945年、イギリス)』に着想を得て、不倫ものをアメリカ風にやりたいというアイデアを持っていた。
そこに、
脚本を共同執筆したダイアモンドの(友人の)個人的経験をプラスしてあらすじができたこと。
シャーリー・マクレーンがまた素晴らしい。
地方出身の男運の悪いエレベーターガール。
◆チャーミングだが、無垢ではない。
◆道ならぬ恋をしているが、アバズレ(死語?)ではない。
絶妙ではないか?!
シェルドレイク部長は、当初、ポール・ダグラスと公表されていたが、彼の急死によって急遽代役をオファーされたフレッド・マクマレイがまたハマり過ぎなくらいハマっている。
◆不誠実で尊大だが巨悪というより小悪党
◆どうしようもなくジコチュウ
妻と離婚する、を匂わせながら不倫で遊ぶワルイやつをちょうど良く演じた。
4.何度観ても感動できるラスト
わたしが、
ラストシーンだけで、何度観ても感動できるのは、
『アパートの鍵貸します』と『砂の器』だ。
新年を迎えるパブ。
蛍の光が演奏される。
アパートに向かう彼女の耳に聞こえる銃声。
作中、主役の2人が、
「ジン・ラミー」というカードゲームを2回プレイする。
最初は、心ここにあらずのヒロインと。
2度目は、心を決めたヒロインと。
「Shutup, and deal」(黙って配りなさい)
最初に観たのは、
学生時代に地上波(国営放送だったと記憶している)。
不倫の経験もないのに、感動して泣いた。
素敵だなあ、良かったなあ、
とそれ以降も、
何度で観ても、
同じレベルで感動できる。
本当にこの作品が好きなんだと思う。
ジャック・レモンもシャーリー・マクレーンも好きな俳優だし、ビリー・ワイルダー監督も巨匠だと思うが、
個人的には、3人とも本作がベストだと思う。
☆5.0+α
シリアスとユーモアの見事な融合に…
アカデミー賞では、
主演男優賞・女優賞こそは逃したものの、
作品賞・監督賞・脚本賞の主要3部門他を受賞
した、私にとっては「情婦」と共に
大好きなビリー・ワイルダー作品。
2作品共に、内容は至ってシリアス劇なのだが
作品から滲み出るユーモアのセンスは
どんなコメディ映画も敵わない。
主人公は出世のためなら手段を選ばない
本来は卑下すべき情けない人物なのだが、
何故か憎めきれない。
ある意味、素直な性格の人間像は
ジャック・レモンの演技からも
滲み出ているものなのかも知れない。
今回の再鑑賞では、
終盤での二人の恋愛成就とは異なる方向に
向かっているかに思わせておいての
逆転のエンディングには、
片想いの女性が上役の愛人だったとの事実を
踏まえながら異例の昇進をかなえた男と、
その上役の離婚という自体に
至りながらの女。
その二人がようやく獲得した地位を
捨ててまでも、
たどり着いた相愛への思索の描写が
多少性急過ぎるきらいはあるものの、
それまでの二人の想いの蓄積と、
女の自殺を切っ掛けとして共有した
介抱の時間の賜物だったのだろうと感じた。
この作品、
まともに作ったら、教条主義的な、
場合によっては、あたかも教育映画のように
なりかねないストーリーなのだが、
そこは流石にワイルダー作品、
本当に良く出来た脚本で、
上質なウィットを絡めながらの
各エピソードへの伏線の数々や
誤解の因果関係の設定がお見事!
と言わざるを得ない。
その中で、サブ的な要素ではあるが、
隣家のドクター夫婦が、最後の最後まで
主人公をお盛んな男として誤解している
エピソードが私には大変可笑しかった。
日本では、
チャップリンの「独裁者」
フェリーニの「甘い生活」
ルネ・クレマンの「太陽がいっぱい」
がキネマ旬報でのワンツースリーの年に
第17位と、
日本では今一つの評価だったようだが、
私にとっては、ワイルダーの演出・脚本と、
二人の主演俳優の見事な演技が相まった、
これこそが、シリアスとユーモアの
観点からの見事な融合作品であると、
改めて再確認する鑑賞となった。
どん臭いけど
解説にコメディと紹介されていたが、違う。
男バクスターからすれば純愛、
女キューブリックからすれば、‥‥。
だけど、バクスターは出世も頭にあった。
だからか部長に言われるままに‥‥。
こんな人、日本🇯🇵にもいるような?
いつも会うエレベーターガールのキューブリックに
想いを寄せている。
デート❤️❓の約束もした、が。
だのに🥲部長と‥‥。 すっぽかされたのだ⁉️
が、まだ気づかず、
気づいてショック😨受けていつつ帰宅したら、
キューブリック、オーバードーズで意識不明。
いいなぁ、お隣さんがお医者さん、
直ぐに診てもらい意識不明ながら助かった。
ここでバクスターの人間性がわかる。
だいたいの事情を知っているにもかかわらず、
警察への通報をやめさせ、
詳しいことを明かさないし、大事にしない。
キューブリックの相手を自分と言い、
部長とのことを伏せる思いやり。
バクスター、いい人‼️
キューブリック、部長との逢瀬の後、
•Xmas eveを一緒に過ごせてもらえない。
•離婚すると言いつつ、煮え切らない態度。
•家族へのXmasプレゼントを
たっくさん見せびらかすように持って帰る。
ショック😨だったのだろうなぁ。
しかし、キューブリックも悪い。と世間皆思うだろう。
バクスターが部長にtelしても剣もほろろの対応。
キューブリックの義兄も心配してやって来たが、
バクスター、真実を言わない、
とことんキューブリックを庇う。
だが、この部長クビにした事務員にキューブリックとの
電話を聞かれ妻に告げられ追い出されたよう。
それでキューブリックと一緒になるって⁉️
行くとこ無いから、そしてまた鍵を貸せ、と言う。
懲りへんヤツやな。
キッパリ断るバクスター。
キューブリック、晴れて部長とデートして、
大晦日と新年を祝っていたのだけど、
何か違う、自分が求めていたのはこんなのじゃない。
そして駆けつける先は❓
不道徳なロマンティック・コメディを上質な恋愛映画にしたワイルダーの名人芸
ビリー・ワイルダー(1906年~2002年)は脚本家として戦前は恩師ルビッチの「青髭八人目の妻」と「ニノチカ」、戦中はホークスの「教授と美女」やデュヴィヴィエの「運命の饗宴」などに関わり、ハリウッド映画の監督デビューは36歳になった1942年でした。するとすぐに代表作に値する「熱砂の秘密」(43年・未見)、「深夜の告白」(44年)、「失われた週末」(45年)と連続して傑作を発表し、1950年にはアメリカ映画を代表する名作「サンセット大通り」を生み出します。ここまで「深夜の告白」を除く共同脚本を担当したのが盟友チャールズ・ブラケット(1892年~1969年)という人でしたが、その後喧嘩別れしてしまいます。
〔淀川長治さんは、第25回アカデミー賞の美術監督賞に黒澤監督の「羅生門」がノミネートされたことから大映永田社長に頼まれて1953年3月の授賞式に出席しました。ここで会場の下見の時にアカデミー賞会長のチャールズ・ブラケットと出会い、グロリア・スワンソンにインタビューできるコンタクトを取って貰ったそうです。遥々日本から来た淀川さんが作品とスワンソンを褒め称えたのに対して、気軽に優しく対応した当時のハリウッド映画人の姿が眼に浮かびます〕
この盟友とのコンビ解消の7年後に出会ったのが、ワイルダーより14歳年下のI・A・L・ダイアモンド(1920年~1988年)というコメディ脚本家でした。ディートリヒ主演の「情婦」(58年)を除く「昼下りの情事」(57年)から遺作までを共同で担当しました。このワイルダー・ダイアモンド脚本の代表作が「お熱いのがお好き」(59年)とこの「アパートの鍵貸します」になると思います。
初見は丁度50年前の1975年の3月で、映画日記には“僕ご贔屓のビリー・ワイルダー”と書き始めています。17歳まで僅かに「昼下りの情事」と「翼よ!あれが巴里の灯だ」を観ていてワイルダーファンになっていました。しかし、当時は一般的にサスペンス映画のヒッチコックと同じように、コメディ映画のワイルダーも真面目な社会派映画に比べて評価されにくい風潮があったと思います。それで映画に夢中になった頃、ワイルダー監督も全盛期を過ぎたこともあり劇場で観る機会もありませんでした。しかし、今回良く見直すと、先ず脚本の素晴らしさに驚きました。その台詞のセンスの良さに展開の自然な流れと役者の演技が溶け込んで、何とも形容しがたい心温かいロマンティック・コメディとして完成されているのです。最近になく、終始ニヤニヤしながら映画を楽しみました。
プロローグの主人公バドのナレーションから可笑しさ全開です。1959年11月、ニューヨークの人口804万2783人、平均身長166.5㎝、横に並べるとタイムズスクエアからパキスタンまで、総合生命保険社の本社社員3万1259人、19階普通保険部保険料計算課W区861番デスク、名前はC・C・バクスター通称バド、勤続3年10ヵ月、週給94ドル70セント、8時50分始業5時20分終業、各階ごとに時差出勤16基のエレベーター、でも僕だけ1~2時間残業、家賃は月85ドル。ガラス張りの巨大な高層ビルの無機質な広いフロアーにポツンと一人バドが残り、ジョセフ・ラシェルの音楽が、『サンダーバード』のテーマ曲に似た勇ましさからもの寂しいメロディに変わります。この単なる数字の羅列にある細かい説明の律義さとユーモア、そして人間が機械化して巨大企業の中に埋もれているニューヨークの現実。バドは割り切って数字にこだわり、確実に昇給する昇進のために課長4人の“夕下りの情事”を自分のアパートに斡旋します。でも時には予定外の追加もあり、冬の寒い夜の公園ベンチ(何という長さ)で凍えながら時間を潰し風邪を引いてしまいます。ちょっと前には隣に住むドライファス医師にダブルフェッダーの鉄の肉体と勘違いされて、献体を勧められる始末。この風邪を引いたバドがエレベーター係のフラン・キューブリックと交わす会話がいい。疾病保険部の20から50歳まで年平均2.5回風邪を引く統計を聴いて、フランが引かない分誰かが5回引いていると言うと、バドがきっと僕だと答えます。好意をほのめかす粋な台詞です。バドがデスクで体温計を咥えて、高熱に驚き慌ててスケジュール変更するシーンのジャック・レモンの演技の巧さ。自分に言い聞かせるように何度も首を縦に振って三人の課長に次々と電話を掛ける。曜日変更を問われてカークビー課長の電話交換手の彼女が、木曜は『アンタッチャブル』を観る日だから駄目と、わがままを言うのが可笑しい。ワイルダーのここの演出はルビッチタッチを彷彿とさせます。そこからシェルドレイク部長から27階の役員フロアーに呼び出されて昇進かと期待するも、鍵の貸し出しを知った部長とそれを誤魔化すバドの駆け引きの面白さ。シェルドレイク部長を演じるフレッド・マクマレイの余裕ある詰問とレモンの綱渡りの言い訳。そして部長の映画チケットと交換の真意を察してバドがポケットから鍵を差し出すところの、クシャクシャなティッシュで焦らす演出の巧さ。全く予想していなかった戸惑から呆気にとられるレモンの演技も絶妙です。その映画チケットでフランをデートに誘うも後から行くと言われて待ちわびるバドの寂しさと、フランが駆け付けた中華バーにはその妻子持ちシェルドレイク部長がいる驚きの種明かし。でもフランも部長の離婚する詐欺に騙され6週間ぶりのお誘いで愚痴を語る。そこに秘書オルセンが入店してきて慌ててタクシーに乗るフランとシェルドレイク部長。バドの書いたメモで住所を確認するシェルドレイク部長と、もう上映が始まっているであろう映画館前で箱ごとティッシュを抱え鼻をかむバドの対比。平社員の哀愁が漂います。ティッシュ1枚がバドの落ち込んだ気持ちを表すかのように、風邪に吹かれて濡れた舗道に落ちる。ここまで二日間の描写で全体の三分の一を占めます。機知のある洒落た台詞とテンポ良い演出が無駄なく展開し、尚且つ作為がわざとらしくない。ここまでいくとワイルダーの名人芸と言えるでしょう。
ついに勤務評定の忖度のお蔭で総務課第二課長補佐に昇進して個室を与えられるバドに、お祝いに駆け付ける課長4人。でも彼らはシェルドレイク部長がメンバーに加わったことを知りません。スケジュール変更が重なり不満たらたらのところへ部長が登場し、課長たちは退散。スペアキーを提案するシェルドレイクと、忘れ物の割れたコンパクトミラーを返すバド。
そこから12月24日(木曜日)クリスマスイブになり、社内パーティで秘書オルセンからシェルドレイクの本性を知らされ意気消沈するフランに対して、全社で2番目に若い管理職、1番は会長の孫息子と自慢するバドは、新しい帽子を披露して話が止まらない。話の流れでバドが彼女のコンパクトミラーを借りて帽子姿をチェックするカット。シェルドレイクの愛人がフランと分かったバドの困惑顔が二重に写るところの演出が巧い。そして他の社員が盛り上がる中を一人帰るバドのショットは、意気揚々と課長補佐の個室に歩いて行ったシーンの因果応報の答えでもあるでしょう。
失恋に落ち込み、バーで独りマティーニを飲むバドに絡む変な中年女性のキャラクターがまた可笑しい。歳に似合わない甘えた声で話す内容が、キューバ革命(1959年)でアメリカとの友好関係に危機感をもたらした独裁者カストロを持ち出し、騎手の亭主が馬のドーピング?で刑務所に入れられ音信不通という信じがたい話。身長155センチ体重45キロの亭主が可愛いと自慢する彼女、この数字のお遊びもプロローグと同じです。一方バドのアパートでは、離婚したいが出来ないと言い訳ばかりのシェルドレイクの狡さに、そんな男を本気で愛した自分を責めるフランの嘆き。シェルドレイクは家族のクリスマスプレゼントを抱えアパートを後にするが、フランには100ドル札一枚を渡すだけ。結局お金で解決しようとする。ここからバドがその変な中年女性をアパートに連れ込んで展開する模範的シチュエーションコメディに、ワイルダー演出が冴えわたります。中年女性を追い出すところにドライファス医師が駆け込み、バドとの別れ話から自殺未遂と思い込まされる上、別の女性を引き入れたと軽蔑します。無理やり追い出される中年女性は帰り際に、亭主に言いつけて仕返しさせてやると意味不明の啖呵を切りますが、これが後にフランの姉の亭主が登場して強烈なパンチを喰らわす展開の面白さ。ドライファス医師は手慣れた応急処置を施し、意識を戻すために何度もフランの顔を叩きます。その音が響くシーンのリアルさがあって、翌朝家主の女性が苦情に来ます。朝食を用意してくれるドライファス医師の奥さんは旦那からすべて聞いていて、バドに蔑む視線を浴びせます。踏んだり蹴ったりのバドですが、フランを思いシェルドレイク部長に電話をして顔を見せて下さいとお願いする優しさを見せます。4時になり金曜日予約の課長が愛人を連れて来て、フランを見つけて帰るのはいいとして、外で待つ愛人がドアを叩くところをドライファス医師が見てしまう脚本の細かさと密度がいい。
2人でパスタのメインディッシュのクリスマスパーティーをしているアパートに義兄が現れ、睡眠薬を飲んだ原因を自分の所為だと言ってパンチを喰らっても、何処か嬉しそうなバドの表現。数日一緒に暮らし知れば知るほどフランが好きなのを自覚しても部長に遠慮していたバドが、このパンチを貰って男に目覚める演出がいい。意気揚々と出勤したバドは、個室でフランを引き受けますの予行練習をします。ところが秘書オルセンの密告により奥さんから家を追い出されたシェルドレイク部長は、フランと寄りを戻そうとする。そして、事件を隠密に収め、フランを介抱したバドに新しいポストを提供します。人事部長補佐の後任という役員フロアー27階の部長室の隣の個室です。その日の帰り、デートの彼女が待っているとフランに見栄を張るバドが売店に向かうところのズームショットは、ヒッチコックタッチの演出でした。
大晦日、フランと一緒に過ごしたいシェルドレイク部長が鍵の貸し出しを要求するも、バドが渡したのは役員トイレの鍵でした。抵抗を見せたバドに、27階までは何年もかかるが失墜は30秒だと脅すシェルドレイク部長。辞職を覚悟して個室を出るバドが事務員の男性に帽子をかぶせるシーンの潔さ。勇壮なテーマ曲が一番ピッタリ当て嵌まります。そして、アパートで引っ越しの為の荷造りをするシーンでピストルを仕舞うところを見せて、フランとシェルドレイク部長がいるレストランのパーティーシーンに変わり、鍵の貸し出しを拒否して退職したことを知るフランの表情。本当の自分を愛してくれている男性はバドだったと漸く気づくのです。蛍の光を聴きながら微笑むシャーリー・マクレーンの可愛さが真剣な表情に変わる演出の細かさ。微笑みながら走るフランのショットからアパートの階段をのぼり切ったところでなる銃声のような爆発音。ドアを開けるバドがシャンパン溢れるボトルを持っている。ラストシーンまでも予定調和で終わらせず、観客にサプライズのドキドキ感とそこから安堵感を満喫させる憎い演出です。
それでも誇張されたコメディとは言え、大企業内の不道徳な男女関係は、今の時代から見ればパワハラ・セクハラの乱れた内容です。それが少しも嫌らしく感じないのは、主演のジャック・レモンとシャーリー・マクレーンの個性と素晴らしい演技の賜物と言えましょう。出世街道をあのまま突き進めば、バドは一生孤独だったはずです。人を愛するのを諦めた孤独な男の悲哀と涙ぐましい努力の動きを巧みに演じたレモンの素晴らしさ。マクレーンも男に騙される痛い女性の純粋ゆえの思い込みを見事に演じて、本当の愛に気付き大人になろうとする女性を演じ切っています。そして、この二人を盛り上げる悪役シェルドレイク部長のフレッド・マクマレイのキャスティングの良さ。脚本・演出・演技・撮影・音楽のすべてが揃った、楽しく心温まるアメリカ映画でした。
ワイルダー監督に、乾杯!!
トイレの鍵返します
ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン共演のコメディ。
大手生保に勤める独身サラリーマンのバド(レモン)。ラブホ代わりに使われると知りながら、点数稼ぎのため上司や会社幹部に日ごと夜ごと部屋を明け渡す。
そのせいでバドは大家や隣人から白い目で見られ、おまけに風をひいたり不眠症で睡眠薬を手放せなくなるなど散々な生活。
そんな彼もエレベーター嬢のフラン(マクレーン)に心惹かれるようになるが…。
今から65年前のアメリカ社会。
女性社員は男性上司の浮気の受け皿。上役の機嫌を損ねりゃ男も女も会社に身の置き所がない、セクハラもパワハラもやり放題の時代。
当然、ビリー・ワイルダー監督はそんな風潮を揶揄したうえで、良質なコメディに仕上げている。
でも、65年経った今、時代は本当に変わっただろうかと考えると、正直いって昔のことを笑えない。
自殺を図った愛人に「驚かされて不愉快だが、なかったことにしよう」と言い放つ65年前の男も、性被害に苦しむ同僚女性に「無邪気なLINEしてみましょうか」なんて考える65年後の男も、女性蔑視の意識は大して変わったように思えない。
「利用する人とされる人、後者はとことん損ばかり」とのフランの嘆きも、今の世にだって当てはまる。
自身もユダヤ系移民ゆえ、差別に苦しんだワイルダー監督はこうした不条理に敏感だったのだろう。そう考えると、中欧ぽい名前のフランの義兄が監督の分身に思えてくる。
時節柄、このテーマでは素直にコメディとして楽しめないが、コンパクトや睡眠薬、拳銃などの小道具を活かした伏線に名匠のセンスを感じる。
バドの部屋のレコードスタンドにあるのは、エラ・フィッツジェラルドの“THE FIRST LADY OF SONG”。
Amazon等で購入可能らしいが、アナログ・プレーヤーがない。
残念…。
NHK-BSにて初視聴。
本当の幸せとは
『サンセット大通り』に続き、ビリー・ワイルダー監督の映画ということで鑑賞。
前半はテンポ良くコミカルにストーリーが進む。勤務時間中に、部屋貸しの副業に勤しむバドの姿に笑った。彼はこの副業の結果昇進するが、仕事が関係無い部分で昇進が決まる会社の腐敗っぷりを見ていると、そのうち業績が傾いてそうだ。ストーリー後半は前半と比較すると少し冗長な印象。前半の方が面白い。
バドは昇進したのにもかかわらず最終的に会社を辞めた。それは、今まで喉から手が出るほど欲しかった立場に実際なってみると、思ったほど大したものでは無かったことを悟ったからだろうか。会社での昇進よりも、エレベーターガールのフランと結ばれる幸せの方がはるかに大きいと感じたのかもしれない。人生における本当の幸せについて考えさせられる。
目を覚ませ!、人であれ!
君が荒んだ瞳で強がるのが とても痛い
憎むことでいつまでも あいつに縛られないで
ここにいるよ 愛はまだ
ここにいるよ うつむかないで
空と君との間には 今日も 冷たい雨が降る
君が笑ってくれるなら 僕は悪にでもなる
中島みゆき 「空と君とのあいだに」
やっぱり思うんです。古い映画の、違うなーと思う場面と、変わんないなーと思う場面。実は、違うなーの場面は、今の時代が、それだけ改善したってことだと思います。で、変わんないなーの場面は、先代からの宿題が、未だに解決していない。むしろ、悪化していたり。
離婚を撒き餌にする、恋する殿方が不変なのは、自分のDNAをバラ撒きたがる本能。今後も変わらんでしょう。一方で、簡単に手に入るもの欲しくない、興味ない。その代わり、マスカラが使えない恋に恋い焦がれ、身を焦がす。男と女の間には、今日も冷たい雨が降る。誰もが、みゆき姐さんや、瀬戸内寂聴さん並みの生き仏になれるわけじゃないからね。悟りを拓く前に、目を覚まし、人でありましょう。間違えていいんです。迷い続けていいんです。口先だけの愛は不要。目の前の人を、ちゃんと大切にできるなら。
それにさ、格好いいじゃないですか。好きな人のために泥被るって。好きなヒトの前では、格好つけなくちゃ。報われぬ恋だとしても、見栄を切る切なさ。それが自分を救うことだってある…かも。
観たことないですけど、確か「イエスマン」って映画。人生の選択で、ひたすらイエスと答え続けたら、こうなりました、みたいなお話。どんな結末か知りませんが、アパートの鍵貸したら、何か変わるかもね。ヒトはあまねく、結末の知れぬストーリーの真っ只中にいます。ひとりひとりが、主人公です。脇役には、なれません。次のアクション、始まってますよ。
この前のクリスマスは、如何お過ごしでしたか?。次のクリスマスまで、まだ時間があります。この映画観てから、次のクリスマスを迎えてみては如何?。きっと、何かが…。
私のアパートの鍵、貸しませんけど。
和田誠展に行ったので
【”人間に戻ります!と出世するために手段を選ばなかった男は元上司に決然として言った。”今作は人間の愚かさ、可笑しさ、ヒューマニズムを全て取り入れた脚本とW主演の二人が素晴しき逸品である。】
ー 昨年秋から当方が生まれる前の、世に言われる”名画”を少しづつ夜中に鑑賞している。
私事で恐縮であるが、未だ不惑なのに老眼の為に読書量が激減した事と、配信の技術普及による。
私は、映画は映画館で観るべきという主義であるが、地域によっては映画館がない方も多いだろうし(実際、私の居住県でもここ数年で多くの劇場が閉館になってしまった。)その点については、言及する積りはない。-
■多くの方が粗筋を御存じであろうが、初見の青二才なので簡単に。
ー 大保険会社の平社員・バド(ジャック・レモン)は自身の出世のために、上役たちの部長の逢い引きの場として昼間、自分の部屋を提供していた。
そんな中、人事部長のシェルドレイクは、バドが思いを寄せるエレベーターガールの女性・フラン(シャーリー・マクレーン)を部屋に連れ込んでいた。
その事実を知り、ショックを受けていたバドが、クリスマス・イヴに部屋に帰ると、フランが睡眠薬を過剰摂取し、意識不明になっていた・・。-
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・最初は、バドの事を仕方がない奴だなあ、と見ていたのであるが、それに輪を掛けて愚かしき部長5人の姿が、愚かしくも面白い。
ー 大体さあ、人事部長程度で愛人を囲う場所も持たないシェルドレイク君。器が小さいぞ!しかも妻子持ち・・。更に言えばクリスマス・イヴでのフランとの密会での贈り物がクシャクシャの100ドル札ってどーなのよ!。そりゃあ、フランが自棄を起こすよな!-
・シャーリー・マクレーン扮するフランも可愛いのだが、彼女も部長たちとイロイロ有って・・。そして、彼女が持っていたコンパクトの鏡の割れ目が意味する事。
・けれども、クリスマス・イヴに女連れで帰宅したバドは睡眠薬過剰摂取した意識不明のフランを発見し、隣人の医師を叩き起こし胃洗浄をして貰い、危機一髪で助けるのである。
ー 亭主をカストロに幽閉された一人クリスマスイヴを過ごすマージが少し可哀想だが・・。-
・漸く目を覚ましたフランを懸命に介抱するバド。
ウトウト眠ろうとするフランに対し、一生懸命にカードゲームをするように誘い眠らせない様にする姿や、テニスラケットで茹でたパスタを受け取るシーンや(水を掛けては駄目だよ!)バドの出世第一主義の心が変わって行く過程をホロリとするシーンも含め、面白く描いている。
ー とにかく、ショート・カットのシャーリー・マクレーンが可愛いんだよね。-
■告げ口により、シェルドレイクにより、馘首された元秘書、ミス・オルセンの進言により自分も首になったシェルドレイクに、バドが決然として言った言葉。
”人間に戻ります!”
そして、彼は会社の要職の椅子を蹴って会社を辞めるのである。
<ラストも粋である。
バドはフランに初めて、秘めていた愛を告白する。
そんな彼の真面目な表情を見て、彼が自分を助けるためにカードゲームを勧めてくれた事を思い出したのか、テーブルに在ったトランプを取って、”黙って配って・・。”とフランは微笑みながらバドに言うのである。
もうね、ホント今作のラヴ・コメディのレベルの高さには参りました・・。>
台詞回しと演出が絶妙に上手い舞台喜劇。
内容は、主人公のアパートメントの鍵を会社の上司にラブホテル代わりに貸し出す事で出世しようとする男と男運の悪い道ならぬ恋をする職場のエレベーターガールとの恋話。印象的な台詞は『物事は全て成り行きだね』色んな意味合いの混ざる思い言葉は、甘くて苦い胸打たれる台詞でした。キャストの表情や間合いで表現される場面はみてい観ていて惹きつけられました。印象的な場面では、最後の空白のクリスマスからの年越しのシーンです。上手く観客の心を惹きつけて落とし所を確保する辺りは上手いなあと感心します。毎回様々な伏線が張られており予想できる安易さも丁度よかったですし、狭い舞台で繰り広げられる人間模様は素晴らしいものがあります。印象的なアイテムは、割れたコンパクトで『割れてるね』『知ってるわ。この方がいいの!私の心を写してる様で…』三幕構成の第一幕終わりでの3人の関係性を知る場面には、演出の妙が巧みに繰り広げられ、ビリーワイルダーの真骨頂を魅せられた様な気になりました。個人的には『He's taker(奪う奴)』との第三者の台詞が好きです。会社の重役との不倫に悩んでいた時に聞かされるとは目も覚めます。正しく宮沢賢治『洞熊学校を卒業した三人』が好きな自分は、思わず現実社会でもアルアルだと思いました。なので、この歳になり周りに友達がいない現実に激しく納得しました。この事件後、主役二人の距離と二人の精神的な成長がハッキリとみられ応援したくなります。そして最後にはハッピーエンド。エンターテイメントでお決まりですが、何故幸せな結末が必要か否か理解出来る様に感じました。テンポの良さと映像伏線の素晴らしさと音楽との相性には映画を見ていて良かったなと思える部分が多分にあり何回も見たい凄い作品です。
後半がなぁ。。。
前半のシチュエーションの面白さと語り口の上手さは もう 天下一品。見事だった。しかし 1時間 終わったところから急にストーリーの展開が止まったように感じた 。やることなすこと全てお決まりで描かなくてもいいシーンをダラダラ 描いてるように見えた。 全ては ラスト へ持っていくための焦らしのようなシーン。 主人公が最後の最後まで受動的で 映画的なドラマ性に欠けると感じた。
ここからは ネタバレです
主人公はお金を儲けたり 出世に役立てるために鍵を貸しているのか、 鍵を貸さなきゃいけないことになっちゃっているのか ?・・やってることが中途半端 。この中途半端な主人公が事の真相を知ったらどんな風に変わってくれるだろう・・というのが一つの期待というか サスペンスになっていて前半は本当に面白かった 。しかし事の真相を知った主人公は何ら変化することなく、 中途半端な奴のままでダラダラと話が続くだけだった。見てる私は飽きて嫌になってきた 。そして、どうにも嫌になってきたところでハッピーエンド 。このタイミングがよくて割とシャンとした映画になった。
実際にはこんな退屈な男のところに こういうタイプの女が自らやってくることは絶対にない。絶対にないというところがモテない男のファンタジーとしてうまくいっていたと感じた。
チャップリンの『モダンタイムス』の様に見えた。
ジジイ目線で終わる寓話。
初見は50年以上前で、我がオジキが好きな映画だった。
ガキだったので、シャーリー・マクレーンを綺麗なお姉さんと見ていた。だから、ファンにはなったが、映画自体は印象に残らなかった。
今回改めて鑑賞して、ジジイ目線で都合良く作られていると感じたが、奥深い所もあるんじゃないかと思った。
摩天楼のシーンから、資本主義経済の犠牲になっている労働者の話のような気がした。まるで、チャップリンの『モダンタイムス』の様に見えた。
ブリシットジョプを60年以上前にこの映画は描いている様に感じる。
具体的に言えば、エレベーターガールなんて、現代では必要のないブリシットジョプだ。また、ここで働く者のほとんどが必要ではない仕事に見える。
そして、アメリカ経済にとって、一番いらないのが、この会社なのではないかと感じた。具体的には、この会社から主な登場人物が去って、この映画は大団円を迎える。
河島英五
よくもまあこんなドロドロとして重苦しいストーリーをユーモアたっぷりに仕上げたものでしょうか。ところどころニンマリしてしまいます。やっぱりビリー・ワイルダーは天才です!
この映画は男のずるさと女の弱さのはざまで展開される物語(やばい、河島英五っぽくなってきた)なんだけどやっぱり男視点の映画と言わざるを得ないのかなって思います。最近、昔の映画を観返していて改めて思うんだけど基本的に映画って男視点?それは監督さんがほとんど男性だから?女性の方々はこのような男視点の映画をどのように楽しめておられるのだろうか?今頃になって疑問がよぎる今日この頃です。
1960年の作品だから今から60年以上前。私が初めて観たのは入社したての30年ほど前。その頃はまだバブルの勢いが残っていてやれ残業だ、出世競争だ、上司へのゴマすりだ、オフィスラブだのがはびこっていた時代だったからこの映画にもとても感情移入したものです。今となっては働き方改革だとかパワハラ撲滅だとかリモートオフィスだとかホワイトカラーの働く環境も大きく変わってしまいました。今の若い人がこの映画観たらどんなふうに感じるんだろう。もし機会があれば、こちらも是非きかせていただきたいです。
ホワイトカラーというのは…
なんてウエルメイドな・・・
まぎらわしいシャンパン
ビリー・ワイルダーの傑作喜劇で、ジャック・レモンもシャーリー・マクレーンも素晴らしい。
主人公(ジャック・レモン)は出世のために、自分のアパートをラブホテルのように、上司に貸し出していた。
密かに想いを寄せていたエレベーターガール(シャーリー・マクレーン)が実は・・・。
こんなコメディを観たいものだ。
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