「面白かったです。」鬼龍院花子の生涯 まゆうさんの映画レビュー(感想・評価)
面白かったです。
高知の侠客と、その家族の話。主演は仲代達矢だが、女たちがメイン。
ゴッドファーザーに比べるとスケールはだいぶ小さめ。
(正直、私は侠客・任侠・ヤクザの違いがよく分かっておりません)
古い封建的な時代で、政五郎(仲代達矢)は字が読めない。十分な教育を受けていない。単純で直情的で、おそらく面子や暴力が全てみたいな世界で生きていくしかなかったであろうことが容易に想像でき、それも合わさって政五郎の滑稽さ、哀れさ、不器用さ、真っ直ぐさが魅力的に映る。さらに舞台が高知、男っぷりがカッコいい。方言も良き。
女性から見ると政五郎は何だか可愛らしいところもある。松恵(夏目雅子)をレイプしかけるが、死ぬ覚悟で拒否られると、一気にしゅんとなり、ごめんね…と素直に謝るところなど。まるで子どものよう。
原作を読んでいないのですが、政五郎が須田(丹波哲郎)に逆らってから、しのぎは何だったのかなぁ…お金ないから無理して花子を嫁がせたのか?等と思ってるうちに話は進み、子分に金を集めてこい!と無茶振りする様子が出てきて(生卵を飲むシーン)困窮してきてるかな?とか。想像しながら見ました。
歌(岩下志麻)が亡くなるシーンは凄まじく、すごい迫力でした。そして、歌が松恵に辛く当たったことを詫びるところは、涙が止まりませんでした。子どもができなかった歌、政五郎と一緒になったいきさつなど、きっと歌も色んな思いを抱えてこの世界で生きて来たのだろうと思いました。
ラストの松恵の「本当に、本当にこの家の子で良かったと思っている」というセリフと、大きな声をあげて泣くシーンも印象的でした。言い聞かせるように。噛み締めるように。本当の親子じゃないから。侠客家業だから。政五郎を呪う気持ちもあったろう。それでも、「この家の子で良かった」という言葉は決して嘘じゃない。重くズシッッと胸に響いて、涙、涙。
「なめたらいかんぜよ」は言わずもがな、名場面でした。亡き夫の遺族に、遺骨をお前に渡すくらいなら犬畜生にやる方がマシだと言われぶちギレた松恵が放つセリフでした。カッコ良かった…美しかった。あの激しさが、夫への愛情もさることながら、「鬼龍院の家で生きた松恵」のプライドみたいなものを感じる場面で素晴らしい。そんな風に言われるほど惨めなんかじゃない。お前らに分かってたまるか。お前ら一体何様か。必死に生きて来た彼女たちの生き様、背負ってきたもの全てが、このセリフにグッと凝縮されている気がします。なんと逞しいことよ。
その一方で、花子が哀しい。
生きる力強さを松恵に感じつつ、やっぱり哀しいのだ。日の当たらない。政五郎に溺愛され、わがままに何不自由なく暮らしてよほど幸せなように見えるけど、そんな風に育てられてぬくぬくと生きていけるほどぬるい世界ではないのだろう。この鬼龍院家の業を象徴するような死に方…啖呵切る姿がカッコいいね!って手放しに言えない世界のお話なのだ。
古い映画なので、効果音がタイミングと若干ずれてるとか、セリフ回しが仰々しいとかはあります。俳優さんが舞台出身とか時代とかでしょうか。原作をぜひ読んでみたいです。