「劇場版の金字塔」踊る大捜査線 THE MOVIE しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
劇場版の金字塔
"踊る大捜査線(映画)" シリーズ第1作。
DVDで20数回目の鑑賞。
テレビシリーズは視聴済み。
テレビドラマの劇場版とはいったいなんなのだろうかと考える時、その答えは全て本作の中にあるのではないかと云う気がしてならない。テレビドラマでつくり上げた下地を元に世界観を壊さない程度に程良いスケールアップを図り、ファンへの目配せも忘れず、映画的なカタルシスへ導いてくれるものが劇場版ならば、本作は見事それに成功していると思うからだ。
そもそも、テレビで観ていた世界観や登場人物たちが大きなスクリーンで躍動していると云うだけでかなり贅沢なことであり、ファンにとっては感無量の光景となり得るだろう。
だが本作はそんな「お祭り」だけに留まらず、カメラワークひとつ取っても非常に映画的工夫が施されていて、本広克行監督の「映画」への強いこだわりが伝わって来るのだ。
冒頭から、レインボーブリッジを渡る覆面パトカーを引きの空撮でもって追い掛け、スケール感を醸し出す。「今から始まるのは映画だぞ」と云う宣言に思え、テレビドラマとは違う画づくりに引き込まれる、素晴らしいファースト・カットだ。それだけ大仰に撮っておいて実はギャグなのもニクい。
副総監誘拐、猟奇殺人、署内連続窃盗と云う3つの事件も、別別の事件ではあるが、実はとある共通項で結びつけられており、これらが複雑に絡み合っていくプロセスは先の読めなさも相まって、コマーシャルの挟まれない、一挙集中で観られる映画だからこそ味わえるカタルシスに満ちているのではないかと感じる(映画館で観られた方が心底羨ましい)。
劇伴も映画作品として成立させるために重要な役目を果たしている。まるでハリウッド映画のような壮大なメロディーが、「踊る」の世界観をスクリーン映えするものに高めていき、観る者の感情を昂らせ、どんどん盛り上げていく。そして、(オープニングを除いて)ここぞとばかりにかかる「リズム&ポリス」に、テンションは最高潮を迎えるのだ。
名作へのオマージュも、映画ファンとしては見逃すことの出来ない要素である。「天国と地獄」を模倣した煙のパートカラー映像は、物語としての伏線も効いていて素晴らしい。
何よりも特筆すべきは、シリーズ最強のサイコキラー・日向真奈美を生み出したことだろう。小泉今日子の怪演も相まってハンニバル・レクターにも引けを取らない存在感だった。
テレビドラマの下地があるので登場人物の説明は殆ど省かれているが、本作が初見であってもそれぞれのキャラや相関図などを把握し易い構成なのも良い。テレビドラマから引き続いて描かれる警察組織の抱える矛盾や、本庁と所轄の軋轢、官僚主義などがストーリーに深みを与え、時に混乱を巻き起こしながら、青島の名ゼリフや室井の熱い決断に繋がっていく。
3つの事件が収斂し、いよいよ迎えたクライマックス。劇場版ならではのサプライズとして我らが主人公青島刑事が刺されてしまう。シリーズの集大成として申し分無い展開だ(今回身代わりになってくれるものは無かった)。敬礼の列が青島を送り出す感動的な名シーンによって、殉職するのかと思わせておき、涙を笑いに転換させたオチが見事であった。
テレビドラマの集大成となるストーリー、映画ならではのスケール感とカタルシス、それらを巧みに持ち合わせている本作が、「劇場版の金字塔」などと呼ばれるのも納得出来る。
その実力は、興行収入101億円超えと云う記録を見ても明らかだろう。本作以降、テレビドラマからの映画化の流れが加速したが、本作を超えるものには正直出会えていない。
[以降の鑑賞記録]
2019/05/27:DVD
2019/11/10:DVD
2020/06/23:FOD
2024/09/28:土曜プレミアム(4Kレストア版)
※リライト(2024/09/28)