「見事な構成で惚れ惚れします」男はつらいよ 寅次郎紅の花 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
見事な構成で惚れ惚れします
寅さんシリーズの実質的最終回
本当は後2作つくる予定だったそうです
それでも本作のラストでの寅さんのご苦労様の台詞、そして復興しつつある神戸の被災地の光景をクレーンが高く上がって俯瞰しつつエンドマークがでるのはシリーズ最終回でも全くおかしく無いものです
むしろこの回で終わって良かったのかもしれません
寅さんはそれからもフーテンを続けていく
リリーさんともまたどこかでより戻したりケンカ別れしてるんだろうなあ・・・と遠い空の下から思える素晴らしいラストシーンだと思います
今回観ていろいろ気付きがありました
何故美作滝尾駅から始まり、津山が騒動舞台となるのでしょうか?
タイトルバックのお祭りのある城下町は中国勝山のお祭りです
でも寅さんが買った切符は勝田まででした
その勝田と津山と中国勝山は、実は出雲街道沿いの町だったのです
出雲とはつまり縁結び、結婚への道だったのです
美作滝尾駅はその出雲街道へのイントロダクションとなっていたわけです
そして津山から北北西に30キロ弱の山間部に奥津温泉と言うところがあります
映画「秋津温泉」の舞台です
その映画の終盤には津山城の公園が登場します
津山城の石垣のセリフでその映画を思いだしました
何十年も一人の男を愛し続けてひたすら待つ女の映画です
つまり監督は本作はそういう映画ですよと言っているのだと思いました
本作では泉ちゃん、そしてリリーさんです
二人とも煮え切らない、愛する男を待っているのです
泉ちゃんを柴又駅のホームで見送るさくら
ハイビスカスの花でリリーさんがさくらと寅さんに見送られるシーンと瓜二つです
15年の時間差で同じことが再現されているのです
紅花の花言葉は 包容力、 特別な人、愛する力、だそうです
リリーさんは何故、沖縄でなく奄美大島の加計呂麻島に住んでいたのでしょうか?
この島の金持ちの年寄りと再婚して、死別後もこの島に残っているとの話をリリーさんがしますが何故そのような設定なのでしょうか?
奄美大島の西隣の島が加計呂麻島、その先には与論島
沖縄返還までは日本の最西端で有名でした
つまり限り無く寅さんと暮らした沖縄に近づきたい
しかし思い出には浸りたくない
そんなリリーさんの心情を表現しての設定なのだと思います
寅さんがたまたまリリーさんを見かけて彼女の家に転がり込んだという説明が台詞であります
本当でしょうか?
きっと前から互いに連絡を取り合っていたのだと思います
ラストシーン
また寅さんはリリーさんの家を飛び出していって神戸長田の被災地にいました
本作公開は1995年12月
このシーンはお正月ですから実は1996年の新年のこと
公開日では未来の話なのでした
本作は三階建ての構造です
阪神大震災からの復興の話
満男と泉ちゃんの話
寅さんとリリーさんの話
1段づつ上がって、また降りて最後は阪神大震災からの復興で終わらせています
見事な構成で惚れ惚れします
最後はリリーさんからの年賀状で籍入れましたと書いてあったら良かったのにとは思いますが、これで良かったのかも知れません