乳母車

劇場公開日:

解説

愛情と生活のトラブルを若い人たちのモラルで築きあげようとする物語。石坂洋次郎の同名小説を「殉愛」の沢村勉が脚色、「女中ッ子」以来の田坂具隆が監督、「太陽の季節」の伊佐山三郎が撮影を担当する。出演者は「泣け、日本国民 最後の戦闘機」の芦川いづみ、「狂った果実(1956)」の石原裕次郎、「病妻物語 あやに愛しき」の宇野重吉、「愛は降る星のかなたに」の山根寿子、「洲崎パラダイス 赤信号」の新珠三千代。その他杉幸彦、青山恭二、中原早苗、中原啓七、織田政雄など。

1956年製作/110分/日本
原題または英題:The Baby Carriage
配給:日活
劇場公開日:1956年11月13日

ストーリー

ゆみ子は父に愛人のいることを友人から聞かされて愕然。翌日、その愛人の家を訪ねた。とも子は留守だったが、そこで弟の宗雄に会い、父ととも子が互いに愛し合って現在の関係になったことを知る。間もなく帰って来たとも子。宗雄は寝ていた赤ん坊を乳母車に乗せて散歩へ。ゆみ子と向い合ったとも子は「お母さまやあなたを愛していらっしゃるお父さまが好きだったんです。お父さまが家庭を壊すような方だったら、お父さまを好きになれなかったかもしれません」と述懐。とも子の家を出たゆみ子は寺の境内で昼寝している宗雄のスキをうかがい不敵にも乳母車をさらってしまう。その夜、ゆみ子は宗雄宛に「まりちゃんと私は血を分けあった姉妹であることをはっきり感じて、私は一生この子の味方になろうと、そのとき決心したのです」と謝り状を書いた。夏休み、まり子の帽子を作りゆみ子はとも子の家へ。だが玄関に父の靴。帰り途、宗雄に会ったゆみ子は二人でまり子の味方になってやろうと約束。宗雄はまり子のことを次郎に話しに行くがとも子との睦まじい姿を見て黙って引き返す。母たま子は、ゆみ子まで父の肩をもち、二号の家へ通っているのを知って、遂に実家へ帰る。これを知ったとも子は次郎に二人の関係を解消しようと申出で、仕事を見つけて新生活へ。しかし、まり子は……。ゆみ子と宗雄は、まり子を幸福にしてやるため次郎、たま子、とも子の三人を合せ、話し合いをさせることを企てる。しかし意外なところで三人が顔を合せたものの何ら解決を見せず、結局、とも子が会社に行っている間は、まり子を乳児院へ預けることになる。夏休みの終りの日、ゆみ子は宗雄と乳児院へ。そして散歩に出た途中、「赤ちゃんコンクール」の立看板を見て、急に応募。薄幸なまり子の両親になって審査にのぞむ。見事三等入選。報告をすませた二人は家路へ。「果して父や、母は来てくれるだろうか、大人の気持は複雑だから判らない。僕たちがあんなにいっても、まり子の問題は結局どうにもならなかったんだからね。でも、いいさ。まり子には僕たちがついているよ。」乳母車を押しながら二人は誓い合った。

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映画レビュー

4.0赤ちゃんのために(石坂洋次郎と石原裕次郎)。

2023年11月12日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1956年。田坂具隆監督。父が若い女を囲っていると知った女子大生は、母もその事実を知りながら黙っていることにもやもやとしたものを感じ、若い女の家を訪ねる。すると、そこには女の弟と父と女の間に生まれた赤ちゃんがいた。女の弟と若い者同士の潔癖かつ率直な会話をした後、主人公は乳母車ごと赤ちゃんを一時的に連れ去ってしまう。それから、女や女の弟との関係、父と母との関係が少しずつ変わっていく、という話。
それぞれに事情を抱えている大人たちの関係をなんとかしようという若い二人だが、急進的にすべてを壊そうとはしない。惚れたはれたに理由はないこと、それでも社会的な折り合いをどうつけるかという問題は残ること、を冷静に会話で解決しようとしている。合言葉は「赤ちゃんのために」。
乳母車を奪うところで終わっている石坂洋次郎原作の短編がすばらしく、さらにそれを短篇集に入れた三浦雅士の評論「石坂洋次郎の逆襲」の内容に感じるものがあったので、購入して鑑賞。石坂洋次郎の小説もその映画作品も極めて入手しにくいが、この映画は石原裕次郎が出演していたからかろうじて入手できた。そういえば、石坂洋次郎と石原裕次郎はゴロが似ている。ともに慶應出身だし。
三浦によると、映画作品での追加部分の構想には石坂が絡んでいるだろうということで、中盤以降の展開(母の家出、父と女の別れ、赤ちゃんのために)の論理展開はおもしろい。みんなそろって会議をする場面の論理展開で「女が男に頼っていてはいけない」というのは確かに石坂っぽいし、父が場をまとめるように最後に感慨を述べておわるところなど、現状の道徳(年長者への経緯とか男の責任とか)を合理的だが理念的な概念だけで否定しないという石坂っぽいところが現れているようにみえる(つまり微温的。父だけ座布団に座っているのが象徴的)。上部構造と下部構造でいえば、若者たち、妻、女が生活や仕事(下部構造)の問題を指摘するのに対して、父だけが自分に都合のよいことだと反省しながらも、心情問題(上部構造)にこだわっているように見える。
DVDと一緒についてきた付録によると、この映画には「太陽族映画」でデビューした石原裕次郎のイメージ(反逆する若者)を変えるために作られたという文脈もあるようだ。石坂洋次郎の作品が反逆とか抵抗とは程遠い現状肯定につながる性質をもっているからだろう。もちろん、三浦がいうように、一見現状肯定にみえる石坂の作品には恐るべき女性尊重の論理が隠されているのだが、最終的には現状の道徳観念を壊してはけない、人間は観念だけでは変わらない、というところにたどり着いている。赤ちゃんの存在によって「すべてよし!」となっていくところにそれが現れているだろう。

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4.0父親の不倫と女性たち。でもあたたかみがある。

2021年6月6日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

父親の不倫と当事者の女性たち、生まれ間もない赤ちゃんを巡る物語。
娘:芦川いづみ、弟:石原裕次郎がとても爽やかで、ここは何とかしなければと画策する。
当時者たちは感情をあらわにするわけでもなく、互いの生活を壊そうともしない。
現状を受け入れ人を責めることなく、未来に向いている。コメディ要素もあり、テーマは重いはずだか、少し爽やかな気分にしてくれるームドラマ。昭和31年の映画。

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M.Joe

4.0主役:芦川いずみから見て → 父親に愛人と腹違いの妹がいる映画

2020年11月26日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
ネタバレ! クリックして本文を読む
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KEO