秋立ちぬ

劇場公開日:

解説

「がめつい奴」の笠原良三のオリジナル・シナリオを、「夜の流れ」の成瀬巳喜男が監督した、都会の子の哀歓を描いたもの。撮影も「夜の流れ」の安本淳。東宝スコープ、パースペクター式立体音響。

1960年製作/79分/日本
原題または英題:Showdown on Pier No.3
配給:東宝
劇場公開日:1960年10月1日

ストーリー

ある真夏の午後、小学校六年生の秀男は、母につれられて呆野から上京した。父を亡くし、銀座裏に八百屋を開くおじ常吉の店に身を寄せるためだった。挨拶もそこそこに、母の茂子は近所の旅館へ女中として勤めた。秀男は長野から持って来たカブト虫と淋しく遊ぶのだった。そんなある日、近所のいたずらっ子に誘われて、駐車場で野球をした秀男は、監視人につかまってバットを取られてしまった。遊び場もない都会の生活になじめぬ秀男の友達は、気のいいいとこの昭太郎と、小学校四年生の順子だった。順子は茂子の勤めている「三島」のひとり娘、母の直代は月に二、三回やって来る浅尾の二号だった。順子の宿題を見てやった秀男はすっかり順子と仲よしになった。山育ちの秀男は順子といっしょに海を見に行ったが、デパートの屋上から見る海は遠くかすむばかりであった。しかもそのかえり道、すっかりきれいになった母に会った秀男は、その喜びもつかの間、真珠商の富岡といそいそと行く母の後姿をいつまでもうらめし気に見なければならなかった。そのうえ、順子にやる約束をしたカブト虫も箱から逃げてしまっていた。しかも、更に悲しいことには、母が富岡と駈け落ちして行方不明になったことである。傷心の秀男と順子は月島の埋立地に出かけた。そこで見つけたキチキチバッタ、しかし、これも秀男がケガをしただけで逃げられてしまった。夏休みも終りに近づいたある日秀男の田舎のおばあさんからリンゴがとどいた。そしてカブト虫も。秀男は喜び勇んで家を飛び出し順子の家へ走ったが、浅尾の都合で「三島」は商売がえし、順子はいなかった。呆然とした秀男は、カブト虫を手に、かつて順子といっしょにいったデパートの展望台の上で、秋立つ風のなかをいつまでも立ちつくしていた。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

4.0最後20分間のために

2023年4月23日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1960年。成瀬巳喜男監督。信州上田から東京銀座の裏通りにやってきた母と息子。学校に行く前の夏休みの数日間、母は近くの料亭で住み込みで働きだし、小6の息子は母の兄が経営する八百屋で暮らし始める。息子は料亭の幼い娘(小4)と仲良くなっていくが、母はなかなか会いに来てくれない。一方、料亭の娘は不自由のない暮らしをしているが、父には本宅があり、母は妾であることの意味を知ろうとし始める。行き場のない二人は家出同然で海を見に出かけ、、、という話。
子供たちの世界に大人の世界(都会の交通事情、地価上昇、恋愛、世間体)が反映している。後半の20分間、海に出かける、足をくじく、家でカブトムシを見つける、届けようとするが娘はいない、という展開がすばらしい。タクシー、線路、警察車両、ダッシュ。感情の激しい起伏がそれまでの丁寧な説明描写を回収しながら、人物の移動とともに描かれる。しかもその最中に、母の兄一家の家族関係や料亭で働く仲居たちの噂話などが織り込まれていく。

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4.5孤独の横顔

2022年11月9日
iPhoneアプリから投稿

信州から東京へやってきた少年が孤独へと追い詰められていくさまをピュアかつ残酷なトーンで描き出した成瀬巳喜男の傑作。

少年は都会で暮らすうちに、それまで信頼してきたものの一つ一つに裏切られていく。母に裏切られ、海に裏切られ、親戚に裏切られ、そして最後には唯一の友人であった少女にも裏切られる。喧嘩をふっかけてきた悪ガキたちを返り討ちにしたり、海が見たいと母親にねだってみせたりしていた彼の幼い心性は次第に後退し、遂にはラストシークエンスの悟り切った横顔へと辿り着く。

不幸続きの少年に対し少女が「田舎に帰りたい?」と問いかけるシーンがあるが、それに対して彼はかぶりを振る。都会だろうが田舎だろうが、自分が孤独であることに変わりはないと彼は言う。この達観ぶりが絶えざる精神的被虐の痛ましい結果であることは自明だ。

少女もまた少年と同じような孤独を抱えている。彼女の父親には別の妻と子供がいて、母親はそれについて何も話してくれない。旅館の従業員たちも噂好きで信用ならない。家庭に居場所がないことを悟った少女は、海を見たことがないという少年を連れて晴海へと向かう。この「絶望の果てに海を目指す」という行動原理もかなり大人びている。

二人が開発前の晴海周辺を歩き回るシーンが印象的だった。それぞれが線路のレールの両端に立ち、左手と右手を繋ぎながら歩いていく。ふらつきながら立ち止まりながら時にレールから足を滑らせながら、それでも彼らは互いで互いを支え合って前へ進んでいく。そこには厳しい都会を生きる子供たちの力強さと脆さが同時に立ち現れていた。しかしそうまでして辿り着いた海は、実のところどこまでも洋々と広がる黄ばんだ水たまりに過ぎなかった。

母親の失踪以降、少年は常に親戚一家から厄介者扱いされていたが、年の離れた従兄弟の兄だけは彼の身を案じており、気晴らしに少年をドライブや映画に連れて行ったり内緒で母親に会わせたりしてくれていた。しかしそんな彼も最後の最後で「カブトムシを探しに行く」という少年との約束をすっぽかし、バイク仲間と箱根に旅立ってしまう。

その後、ひょんなことからカブトムシを手に入れた少年は急いでそれを少女に見せにいくが、彼女の住む旅館は既にもぬけの殻。いきいきと少年の生の躍動を象徴していたカブトムシは、ここへきて単なるありふれた虫けらへと変容する。少年の絶望も知らないでいつまでもウネウネと蠢く肢体がやけに不気味だった。ここまでやるか、と言いたくなるほどの悲劇の応酬に思わず顔が歪んでしまう。

全てに裏切られた少年の孤独を埋められるものは存在するのだろうか。我々がそれに対する適切な応答を考えあぐねているうちに、少年のほうが先に孤独を受け入れてしまった。あのラストシークエンスの横顔。毅然として海のほうをじっと見据える横顔。少年は既に少年ではなくなっていた。その双眸の先には、青春の終わりを示唆するように鈍色の海が鬱々と広がるばかりだ。

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因果

3.5辛い

2016年10月18日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

子供にとって辛いことがひたすら起こる。人として辛いこと、と子供にとって辛いこと、のつるべ打ちであった。

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iwamoog

3.5昭和の銀座界隈や晴海埠頭の風景、人々の生活、それを追うだけでも楽し...

2016年5月7日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

昭和の銀座界隈や晴海埠頭の風景、人々の生活、それを追うだけでも楽しめる。子供達の無邪気でピュアな心と現実の切なさが交差しながら物語は進んでいく。ラストシーンはなんとも言えない哀しさを持って終わりますます少年が愛おしい存在としての余韻が長く残った。
成瀬監督の作品は初めてだったので他の作品も観てみたいと思う。

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tsumumiki