ライラの冒険 黄金の羅針盤 : インタビュー
フィリップ・プルマンの原作が世界的評価の高い小説であることは、特集第1回でもお伝えしたとおりだが、そのような原作の映画化はどのように行われたのか? この難題に挑んだクリス・ワイツ監督に聞いた。(取材・文:編集部)
第2回:クリス・ワイツ監督インタビュー Part.1~映画化への道のり
「ライラの冒険」シリーズは、アカデミー賞を総ナメした「ロード・オブ・ザ・リング」3部作のニューラインシネマが、次なるファンタジー3部作として世に送り出す大作。その監督という大役を務めたクリス・ワイツは、これまで兄ポールとともに「アバウト・ア・ボーイ」の監督・脚本(アカデミー賞脚色賞ノミネート)や、「アメリカン・パイ」の製作に携わってきた人物。
兄と離れて単独で、しかもファンタジーという初挑戦のジャンルで、世界中から注目を集める大作の舵取りを担うことになった経緯や、映画を完成させての心境は、いかほどのもの?
■サム・メンデス、リドリー・スコット…監督候補だった大物たち
――監督候補にはリドリー・スコットやサム・メンデスの名も挙がっていましたが、どのような経緯で最終的にあなたになったのでしょうか?
「そんなに面白い話じゃないけど、複雑な経緯ではあるんだ。まず最初に、僕は脚本家兼監督として雇われたけど、それはサム・メンデスが監督を断った後だった。でも、当時の僕は、これだけの作品を監督できる自信がなかったので、監督は断り、脚本家としてのみプロジェクトに残った。その時に、監督をリドリー・スコットに持ちかけ、彼は『面白いかもしれないし、やってもいいけどダイモンは出したくない。ダイモンを出すと大変だから……』という答えだったんだ」
――その後、一度はアナンド・タッカー(「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」)にも決まりましたよね。
「ダイモンが出ないのでは困るので、リドリーの次にアナンド・タッカーに話がいき、彼に決まったんだ。それで1年くらい企画は動いていたんだけど、彼とスタジオ側のビジョンの折があわず、降板することになった。その時点になって、自分もある程度は監督するアイデアも出来てきて、今なら出来るかもしれないということで改めて監督を引き受けたんだ」
■困難だった映像表現
――監督する自信があまりなかったということですが、VFX満載のファンタジーというジャンルも初めてで、そのあたりで苦労した部分は?
「おっしゃる通りで苦労の連続だったよ。今回は、全体の約1800ショットのうちVFXを必要とするショットが1400くらいある。だから、VFXに慣れたベテランの監督でも大変だったと思う。僕はそれがどれだけ大変かということを良く知らなかったから、手を着けてしまったということもあるね(笑)。大変だったのは、実写とVFXで描いた部分とを違和感なく繋ぐこと。VFXが前面に出過ぎないようにしながら、例えば、人間とダイモンのアイコンタクトが自然であったり、寄り添っている絆を感じさせなければいけなかったからね」
――ダイモンの描写は原作からのイメージ通りで素晴らしかったです。
「まず大前提として、外見は本物の動物と遜色がないようなリアリティがなければいけない。けれど、彼らは人間の言葉を話す。その動作が漫画チックにならないというのも大切だった。ダイモンは、繋がっている人間を象徴している存在で、決して愉快でかわいいマスコット的な動物というわけではない。劇中では彼らはいて当たり前の存在で、観客にとっても、ダイモンがスクリーンをうろついていても違和感なく感じるように、説得力をもつ映像を作らなければならなかった。結果的には苦労したけれど、満足のいく映像に出来たと思うよ」
――素晴らしいといえば、ライラ役のダコタ・ブルー・リチャーズもですね。彼女のどこ惹かれましたか?
「オーディションで、約6000人の中から40人くらいに絞られた段階から、僕はその子たちのビデオを見たんだけど、ほとんどの子はおめかしをして、髪の毛も整え、一張羅を着て演じているんだ。なのに、ダコタだけは髪がボサボサで、着ているセーターも虫食いの穴があったりして、いい意味で洗練されていない、素朴な感じがした。磨かれていない人を後から磨き上げることは出来るけれど、そもそもワイルドさや独立心のない人にそれを与えることは難しい。彼女は洗練されていなかったけど、そういった独立心の強さ、芯の強さを持っていたから彼女を選んだんだ」