3時10分、決断のとき : 映画評論・批評
2009年7月28日更新
2009年8月8日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
サイコ対サイコの構図から、さらに意外な着地点へ
リメイクの鍵はキャスティングにある。オリジナルと比べてどうひねるか。あるいは、どの部分を平行移動させるか。
この力学は「3時10分、決断のとき」でも働いている。いや、リメイクのみならず、オリジナル(「決断の3時10分」)でもキャスティングには工夫が凝らされていた。なにしろ、悪役にグレン・フォードが起用されているのだ。役どころを考えると、線の細い印象は否みがたい。もちろん、理由はある。
新作の悪役ベンに扮するのはラッセル・クロウだ。ベンは腕が立って頭が切れる。人好きのするクールなサイコといいかえてもよい。日ごろ善玉役を演じることの多いクロウに、この役はこなせるのだろうか。
一方、ベンを護送する貧しい牧場主ダンを演じるのは「ダークナイト」や「アメリカン・サイコ」のクリスチャン・ベールだ。こちらは逆に「家庭人」のイメージが似合わない。さあ、監督のジェームズ・マンゴールドはどんな采配を振るって話を転がすのか。
が、この前提に仕掛けがある。善玉が悪玉を護送する話と考えれば首もひねりたくなろうが、サイコとサイコのもつれ合いと考えれば、構図は意外と呑み込みやすい。しかもマンゴールドは、ふたりのサイコの周辺に、もっとわかりやすいサイコの群れを配置する。ベンに恋い焦がれる配下の殺し屋にせよ、ベンの首を狙う賞金稼ぎにせよ、その言動は異様と呼ぶほかない。なるほど、そうか。私は映画の途中でうなずいた。そもそものはじまりは、毒蛇と毒蛇のもつれ合いだったのだ。それをエスカレートさせて、さらに意想外な着地点を探す。マンゴールドも、ずいぶん手の込んだ構図を考えついたものではないか。
(芝山幹郎)