ショートバス : 映画評論・批評
2007年8月21日更新
2007年8月25日よりシネマライズにてロードショー
同時多発テロで男根をへし折られたニューヨークへの讃歌
異形のロックバンドを描く「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」で世界に注目されたミッチェル監督の新作だが、こちらのほうが数段素晴らしい映画だと僕は思う。社会から排除される少数派のセクシュアリティを主題に据える姿勢は一貫していて、むしろ今回のほうが“普通の人々”を相手にしている分、その主張が明確になっている。少し偏ったセックスへの好みを抱え、ついでに精神状態もやや危うい人たちにとっての憩いのサロン“ショートバス”の常連たちを主人公とし、より明確にセックスが題材になるが——だからこそ日本での公開に“ボカシ”が入るのは残念!——むろん“ポルノ映画”というわけじゃない。ここでのセックスは、僕らが誰しも抱える他者との関係性への欲望のメタファーであり、だから登場人物はどこか僕らに似ている。彼らは憐れみや治療を求めてはいなくて、ただ他者との強い関係性を欲望しているのだ、全体としてより若くて過激な世代を被写体とし、サブカルへの傾斜を濃厚に帯びたウッディ・アレン作品といったところか?
グラウンド・ゼロも映し出され、冒頭のチャーミングなニューヨークのミニチュアからグイグイ僕らを引き込むこの映画、同時多発テロでワールド・トレード・センター(男根?)をへし折られたニューヨークへのハートウォーミングな讃歌でもある。
(北小路隆志)