「河合の惣ちゃん、かわいそう・・・ってギャグですか?」俺は、君のためにこそ死ににいく kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
河合の惣ちゃん、かわいそう・・・ってギャグですか?
観る気などなかったのに、窪塚洋介の「この映画を見て、戦争賛美だというヤツはアホだと思う。もう一回見た方がいい。見る前に言うヤツはアホ」という挑発的な言葉に刺激を受けてしまいました。たしかに観る前までは、戦争賛美だとか右翼映画だとこき下ろしてみようかと批判の言葉を準備していたのに、観終えた直後は「これは映画になっていない・・・」と、戦争に対するメッセージが云々というよりも脚本の未熟さに驚いてしまう言葉しか思い浮かびませんでした。日頃は難解な言葉で人々を煙に巻く雄弁さの政治家がわずか三日で書き上げた脚本だけあって、全く感動できない映画になってしまいました。
新城監督が悪いなどとは思いたくなかったのですが、個々の俳優のアップ映像が終盤になるまでなかったのも原因のひとつ。それに、登場人物それぞれ過去のエピソードが欠如している脚本。おかげで誰一人として感情移入できない作品に仕上がってます。いくら群像劇といえども、突然登場した俳優が死に行く悲しさを演出するのは不自然すぎるのです。特攻に赴くそれぞれの兵士だって立派な人格を持った個人であるのだから、この映画のように十把一絡げに“みんなまとめて英霊”として称える作者の考えは、一人の兵士は戦争の駒にすぎないということを意味しているのでしょう。
残念ながら、井筒監督が『パッチギ2』の中で批判したようなシーンはなく、むしろ「死なないで!」と恋人(戸田菜穂)が特攻兵士田端(筒井道隆)に懇願するシーンが全く逆の印象を与えてくれる。と思ったのも束の間、「日本は負ける」とか「生きて帰る」ことに考えが変わる田端がヘンテコな死に方をしてしまい、軟弱者はいらないんだという軍国主義下の強いパワハラが浮き彫りになってしまいました(いつでも死んでやるわい!とか、冗談にもほどがあります)。もう一人「死ぬな」という言葉を使った少年もいましたが、後に彼が自衛隊員になるという奇想天外な後日談で魅せてくれます。
予告編によっても迫力ある特攻シーンに期待がかかる。しかし、実際には飛ばない実機と模型やCGがほとんどであり、最も悲惨なシーンにおいては敵機の銃撃が散弾銃であるかのようにバラバラで、直線にならないところも見事でした。隼からの俯瞰図は一瞬だけで、急降下する臨場感を無くしたことももお年寄りの観客がショック死しないよう配慮したのか、優しい作りになっています。このクライマックスにおいては、特攻隊員側からよりも米艦側からの映像が中心になっていて、これならば途中に一瞬だけあった実写フィルムを多様してもっとドキュメンタリー風にしても良かったのでないかと思えるほど。
戦争を美化しているという悪印象はそれほど感じられませんでしたけど、“潔く死ねない奴は美しくない”という強いメッセージは伝わってきます。とにかく映画としてお粗末な内容でした。最後にはまるでホラー映画のような演出になっていたこともあるし、桜が満開の時期にホタルが飛ぶという、日本の美しい四季を全く無視したセンスにも脱帽です。おかげで映画館を出るときには気分が悪くなってしまいました。
【2007年5月映画館にて】