劇場公開日 2007年5月12日

俺は、君のためにこそ死ににいく : 映画評論・批評

2007年5月8日更新

2007年5月12日より丸の内TOEI1ほか全国東映系にてロードショー

微妙に異なる3人の視点が交錯する反戦映画

製作総指揮・脚本を手掛けた人物のイメージと、多分にイデオロギッシュな題名から、見もせずに戦争賛美映画だと決めつける輩も多いようだが、たやすく批判すべきではない構造をもった作品だ。ここには明らかに3人の視点がある。特攻の母と慕われて多くの飛行兵を見送った実在の主人公・鳥濱トメ。生前の彼女から聞いた話を脚本化した石原慎太郎。そして、戦時下の沖縄出身である新城卓監督。若き兵士へのそれぞれの思いは微妙に異なる。いわば彼らの死を前にして、トメは「惜しい」と抱き寄せ、石原は「美しい」と称え、新城は「虚しい」と嘆いている。特攻に駆り立てた上層部の醜さも描く本作は、総体として、個々の内面に踏み込みすぎることなくロングショットを淡々と積み重ねる新城演出によって、悲しみが心の底に静かに降り積もる反戦映画となった。

石原脚本が選び取る特攻隊員は皆、深い印象を残す。機の整備不良のため何度も引き返し、卑怯者と罵られる者。朝鮮人でありながら志願し、出撃前夜にアリランを歌い泣く者。そして、死ねずに喪失感を抱え続ける者。国を守るために個を捧げた多様な若者を描くことで、石原は、国家とは「母」を中心に「息子」たちが集う「家族」であると強調する。トメの献身的な愛や特攻隊員の犠牲的な死には、もちろん敬意を表すべきだ。しかし、家族=国への帰属意識を強めることは、より他者に対して排他的になることに繋がり、その延長線上にこそ戦争はある。国を守るために命を捧げることが結果的に他者を殺し、自国の繁栄のみを考えたエゴイスティックな行為であることも忘れてはならないが、本作はそこまで想像力を及ばせない。

さて、同時期に井筒和幸の新作が公開される。国と個人の関係をめぐって対照的な2本の映画は、是非ともセットで観るべきだ。愛する家族のために美しく死ぬか、なりふり構わず生きるか。この際、安倍晋三首相にお願いしたい。「俺は、君のためにこそ死ににいく」と「パッチギ!LOVE&PEACE」を“美しい国2部作”と認定し、DVD化の際には国で買い上げて、国民投票の有権者全員に無料配布してみてはいかがだろう。

清水節

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