「お涙頂戴か梶原一騎かはっきりして!」バッテリー trekkerさんの映画レビュー(感想・評価)
お涙頂戴か梶原一騎かはっきりして!
DVDにて鑑賞。
原作は文庫で6冊。それを1本の映画に全部入れることに問題がある。
現在の日本の製作委員会の弱点が出ている映画だと思う。
先に良かった所を。『バッテリー』という題名に相応しい悩める天才ピッチャーとおおらかで懐の大きいキャッチャーとの友情。サワちゃん他、仲間たちとの交流。主役の原田巧は、かなり生意気に描かれていてイマイチ好きになれなかったですが、キャッチャーの山田健太君、仲間の米谷真一君などの少年たちは愛すべきキャラでよかった。特に山田健太君は最高!こんなよく出来た子が友達にいたら、一生、離したくない。監督も彼らとのからみシーンはのって撮っている感じが伝わる。敵の名門中学との試合とか、彼らのスポ根要素をメインにしたら、同じ配役でとてもいい作品が出来たのではないかと思うと、残念…。
一番気になって最後まで入り込めなかったのは脚本。セリフの一言一言に違和感がありセンスが感じられない。始めは弟の闘病もので押して弟は今にも死にそうだという描写をしておきながら、中盤でやっと題名の『バッテリー』メインの話が始まり、弟はメインの話から消えてしまう。そして、あのラスト。弟の病気は何だったのか…。
さらに、母親の態度はリアリティゼロで最悪。原作は読んでいないので原作からこうなのかはわからないが、ここまで、男の気持ちが分からない、野球に興味を示さない母親がこの世に存在するのだろうか?そして、いくら弟が病弱なので兄に目がいかないとはいえ、ここまで兄の気持ちを理解せずに辛く当たる母親がいるのだろうか?最後の方で、父親にたしなめられて理解を示すが、それならもっと早く父親は母親を説得すべき。今にも死にそうな弟を置いて兄の試合を見に行くという設定も違和感がありすぎる。
主人公もシーンごとにコロコロ変わり一貫性がない。登場人物が多すぎてキャラもしっかり描かれない。弟も父親も主人公をいじめる上級生もコーチも脚本上はいなくても成立する存在。野球部の仲間たちの存在に救われるものの、非常に一貫性のない脚本だと思います。
ただ、別の見方をすれば、最高責任者のプロデューサーがしっかりしていれば、このような脚本は通らない。知り合いの業界の方に聞いた話では、現在の製作委員会システムでは、メインで仕切るプロデューサーがいないため、各社がバラバラに意見を言い、それをすべて脚本に組み込むことになる。今作も最近の邦画にありがちな、観客の多様化に対応して老若男女を登場させ、涙も笑いもスポ根も入れ込んで、どこかでひっかかるだろうというようなまとまりのない作品となってしまっている。だから脚本だけが悪い訳ではないし、監督も出来あがった脚本の中で撮るしかないのだ。
だがそんな中で、TVがらみの企画ものでも『東京タワー』のような骨のある作品も存在しているのは映画ファンとして嬉しいことだ。今作でも山田健太君などの子役俳優たちの存在が、大きな救いである。