「Live, Lose, and Love」リトル・ミス・サンシャイン everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
Live, Lose, and Love
誰もが「社会」の望む姿になれる訳ではない。周囲の期待に応えても、それが自身の真の希望と一致するとは限らない。
変わり者が集まったようなHoover一家の珍道中を描いた作品。
この6人家族、自己と世間のすり合わせ方がそれぞれ異なるのが面白いです。
Sherylの再婚相手Richardは、人生の全てを勝ち負けで見ており、社会的成功を収める者こそ勝者だと信じている典型的なタイプ。彼の「成功への9 steps」が売れないのは、実践しているはずの彼自身が、収入の大半を妻に頼るほどちっとも社会的に成功していないからであり、本人はその現実に気付きません。自分はこれから「成功する」に違いないと信じて疑わず、良く言えば前向きで粘り強く、悪く言えば単に諦めの悪い(^_^;)おじさん。幼い娘Oliveに、コンテストで認められるような美しい女性は痩せているのだという、これまた典型的な現代の歪んだ価値観を植え付けようとします。
Sherylの兄Frankは、ゲイで自称Proustの第一人者ですが、ライバルに仕事も恋も敗れて自殺を試みます。何かにつけて承認欲求を垣間見せる彼は、そびえ立つ社会の壁を前に、別の解決策を探すのでも自分を変えるのでもなく、「諦めて」一度は自滅の道を選んだのです。
Sherylの連れ子Dwayneは、新しい家族に辟易しているからか、自由に空を飛べるパイロットに憧れ、Nietzscheに心酔し、彼の “Thus Spoke Zarathustra” を愛読。色盲が発覚し夢破れると一旦は自暴自棄になりますが、”If I wanna fly, I'll find a way to fly.”と、既存のルールを敷いている社会の中で、別の道を模索する勇気を見せます。
Richardの父Edwinは、ヘロイン使用で老人ホームを追い出されたものの、懲りずにヘロイン継続(^_^;)。言いたいことは何でもズバッと言う下品で口汚いお爺ちゃんだけれど、息子や孫に見せる愛情は深いです。社会が定めたルールなんかそっちのけ、受け入れられなくて結構、やりたいことをやって死ぬのが本望だというタイプ。
Sherylは一度離婚を経験しているからか、今の家庭を守ることに心を砕いており、社会的には不器用な家族一人一人を、衝突しながらもありのまま迎え入れようとする姿勢の女性。
7歳のOliveは、唯一純粋に自分の心に従い、天真爛漫に生きている女の子。大好きなお爺ちゃんによる振り付けを、特に疑うこともなく、楽しくリハーサルしてきたのです。
何と言っても見せ場は、社会的に苦い思いを経験してきた家族が、Oliveだけは世間の冷たく高い壁から守ってあげなければと画策する所です。家族全員が壇上に乱入することで、コンテストに負けて出場停止となった理由に、Oliveが自分を責めたり悩み続けたりすることは恐らくないでしょう。
陸と空の交通ルール、安全のためではありますが、他者が定めた基準として分かりやすく象徴的です。破れば罰金、資格剥奪。お爺ちゃんのポルノ雑誌で気を良くする警官は、正にその定められた基準が主観的にいかようにも捻じ曲げられることの証明のようでした。
死体になったら州を自由にまたぐことが出来ないという、死んでも法律に縛られる窮屈さも皮肉です。
そして恐らく多くが首を傾げてしまう、幼女の美人コンテストの異様な評価基準。6-7歳の女児の美しさとは何なのか。子供らしさは?可愛らしさは?その年齢でしか見られない魅力を封印し、大人びた化粧と雰囲気で水着姿や一芸を披露することが王道とされる一方で、無邪気にセクシーダンスを真似てふざけることはタブーとする矛盾。子供を正しく愛するまともな親なら、我が子は皆ワールドチャンピオンでしょう。
社会における「成功」や「失敗」は、美意識同様、その評価基準が時代と共に残酷に変化するものです。NietzscheやProustのように、死後(更に)高評価、再評価を得られる芸術家や作家は少なくありません。一体誰が決めるべきか分からないような「勝ち負け」に意味はあるのか。何かに「負けたら」、社会に認められなかったら、自分に価値はないのか、人生終わりなのか。社会が望むようには生きられない人々への寛容な受け皿が必要です。
世間体に振り回されるばかりでは人生はつまらない。Hoover家が少しも「変じゃない」と見なされる時代もきっとすぐそこです(^^)。ぶっ飛んだポンコツバスのように、逆に世間を振り回すくらい挑戦し続ける生き方を楽しめるようになれたらいいなぁと思いました。
お爺ちゃんとOliveが、本当に仲が良さそうに見えてほっこりしました。
Steve Carellのゲイっぽい?走り方が最高でした
(^。^)。
“Whatever happens, you tried to do something on your own..., which is more than most people ever do..., and I include myself in that category. You took a big chance. That took guts, and I'm proud of you.”
“You know what a loser is? A real loser is somebody that's so afraid of not winning, they don't even try. Now, you're trying, right?... Well, then, you're not a loser. We're gonna have fun tomorrow, right?”
“Fuck beauty contests. Life is one fucking beauty contest after another.”
“If I wanna fly, I'll find a way to fly.”
“You do what you love, and fuck the rest.”