「背景の絵、音楽は美しい。しかし肝心の話が! 吾朗監督…」ゲド戦記 mary.poppinsさんの映画レビュー(感想・評価)
背景の絵、音楽は美しい。しかし肝心の話が! 吾朗監督…
背景の絵は美しい。音楽も美しい。歌も綺麗。
そりゃさすがにジブリスタッフですから。最高のスタッフの技術を結集できますからね。
しかし、最も肝心な、脚本や絵コンテが。だって宮崎駿監督ではなく、宮﨑吾朗監督ですから。
比べるのは酷かもしれませんが、息子は天才ではなかったのですから。
(背景は綺麗でも、アニメーションとして絵の動きに、魅力が全然ありません。
何よりも、話が…)
公開当初から何度見ても、やはりこれは失敗作だと感じます。
何よりも、原作者を激怒させた点が、まぎれもない失敗の証です。
もともと駿氏の生涯の愛読書である小説。数多くの監督からの映画化オファーを、全て原作者は断り続けていた(若かりし頃の駿氏も断られたことがある。)しかし名実共に宮崎駿の実力が海外にも知られ始めた頃、原作者自身が
「もし私の作品を映像化できる人がいるとすれば、それはハヤオ・ミヤザキだけ」
と言ったことがもとで、ジブリが映画化することになったそう。
しかし、吾朗氏監督にしてしまった事が 失敗でしたね…
これまでに原作ありの映画化では、駿氏の「魔女の宅急便」も「ハウル」も、原作と違う点があっても、そのイマジネーションの素晴らしさに原作者も絶賛しました。
高畑氏の「おもひで」も。「火垂る」は原作に無い場面をたくさん入れたことで よりリアルな感動が深まりました。「耳をすませば」は、不人気すぎて連載打ち切りになった漫画を、その年の第1位のヒット映画にして、原作者は泣いて喜んだほど(作者コメントで見た記憶があります)。
「ゲド」は、原作に無い場面で、
まず 主人公が 国王である父親を殺す。しかも、最後まで本人は「何故あんなことをしてしまったのかわからない」そんな重要過ぎることを、最後の最後まで!
これは鈴木敏夫氏が「父親を殺せ」と吾朗氏をそそのかしたのだそうです。しかも試写会で「その場面で駿氏が立ち上がって出て行ったのを見て、やったー!と思った」と述べています。
なんて醜い。 原作へのリスペクトなど無く、話題作りに燃える商魂しか感じられません。
その一方で駿氏は、(インタビューで読みましたが)「千ちひ」の裏設定の1つで、油婆(鈴木氏)が坊(吾朗氏など若手)を溺愛し、血だらけのハク(駿氏)を「さっさと片付けな、もう使い物にならないよ」と捨てる場面を描き…どれだけ苦しかったでしょう。 「ポニョ」も、幼少時に一緒にすごせなかった息子への申し訳ない想いをこめて、宗介=吾朗として描いてるのだそうです。切ない…
吾朗氏の「ゲド」は、長い原作をどう2時間以内にまとめるか…と苦心するのではなく、
原作の雰囲気やエッセンスだけ頂いて、ありきたりのファンタジーアニメにしてしまいました。
(悪役は永遠の命を欲する、朝日で消える…とか凡庸すぎ。未読ですが、そんな単純な原作じゃないのでは。命は大切、とか名言的なセリフは、ただセリフとして言うだけで、アニメーションとして絵が動く力で描けていないので、いまひとつ感動に届かず、説教くさくも聞こえてしまいます。
真の名、正体は竜、など 作者の深い考えの込められていそうな点は、意味不明なまま未消化で、ただ「知りたい人は原作読んで」という丸投げなスタンスなようです。 駿氏の作品の場合、説明不足で意味不明な点は、たくさんの人が知的好奇心を刺激されて深読みし、想像を広げられる楽しみがあるのになあ。)
原作の壮大なファンタジー設定をちょっと借りてきた中で、優秀で立派な父親と比べられる自分のプレッシャー、寂しさ、吾朗氏の感情を描きたかっただけにしか感じられません。
原作者に失礼だと思います。そしてジブリにも。
もし、これがスタジオジブリとしてではなく、吾朗氏が自分で作ったスタジオで、自力で作った映画なら、星5の評価をあげても良いと思います。それなりのレベルのアニメとしては見れます。美しい部分はいくつかあります。テルーの唄声は好きです。(セリフは下手ですが)
しかし、全て七光りの世界で、話題作りに燃えるプロデューサーにそそのかされて父親殺し? 全く評価できません。嫌悪感しか無いです。
吾朗氏だけでなく鈴木氏に重大な責任があります。
ジブリ作品とは別枠の作品として扱うべきです。
もう一つ、この映画のジブリらしくない点は、後半が単純な勧善懲悪ものになってしまった点だと思う。ジブリらしさといえば、悪役もみなそれぞれ事情を抱えて懸命に生きていること、ナウシカやもののけ姫を見れば顕著だ。(ラピュタはわりと勧善懲悪っぽいムスカがいるが、あそこまで振り切って悪役だと、かえって清々しい(笑) ゲドではクモとウサギというわかりやすい悪役がいて、しかも動機は「永遠の命」と「見返してやる」というありきたりパターン。おいおい、アメコミやクラシックディズニーじゃないんだからさ…ジブリといえば物語の深みなのに。