「日本人として、人間として、この映画を見逃してはいけない。」硫黄島からの手紙 mori2さんの映画レビュー(感想・評価)
日本人として、人間として、この映画を見逃してはいけない。
クリント・イーストウッド監督、渾身の“硫黄島2部作”第2弾。61年前、日本の領土で繰り広げられた激戦を日本人俳優をキャスティングして、ハリウッドが撮る…。この事象だけでも映画界にとって画期的なことだと思いますが、果たしてどのような映画に仕上がったのでしょうか?
事前に心配していたような“「SAYURI」状態(=全篇、英語)”ではなかったことに、先ずホッとしました。で、観ているうちに『ホントにこれは、ハリウッド映画なのか?』と思えてきました。これまでのハリウッド映画が描いてきた“チョット変な国・日本”といった違和感は、今回まったく感じられませんでした。いや、イーストウッド監督お見事でございます。ただ歴史上に残る大激戦を繰り広げた後、悲劇的な結末を辿る日本軍の姿を克明に描き出しているにも関わらず、吾輩はこの映画を観て、“泣く”というところまでは至りませんでした。恐らく、この映画を日本人が制作・監督していたならば、もっと号泣するような映画になっていたと思います。その辺りが外国人が撮ったということで、この映画全体に流れるテイストが割とドライ(←この表現が、正しいとは言えないんですが)な感じがして、いい意味で内容を冷静に観ることが出来たような気がします。
キャスティングされた日本の俳優陣も、その抜擢に応える演技を見せてくれます。渡辺謙さんは、もう国際派スターとしての貫禄充分ですし、二宮君(役柄的には、若すぎるかな?とは思いましたが…)に伊原さんもそれぞれに、極限状態における日本人の心をスクリーンに描き出してくれます。
今から61年前に、日本の領土で繰り広げられた激戦…。今現在、この国に生きる人間として、この戦いは決して忘れてはいけません。何故なら、その時そこで戦った多くの人達が払った犠牲の上に、今日の我々の繁栄が成り立っているのですから。そのことを、外国人であるイーストウッド監督が、気付かせてくれました。この映画を観て、細かい描写や思想面などで色々と思いをお持ちになる方もおられるでしょう。しかし、そういった点を度外視して尚余りある賛辞を贈りたいくらい、この映画はエポックメーキングな1本だと思います。映画界の各賞でもノミネートされたり、既に受賞したものもあったりと、アカデミー賞も視野に入れて行けるのではないでしょうか?別に賞を獲ってほしいと思っているわけではなく(いや、獲れればそれはそれで素晴しいことなんですが)、それだけ話題になるとより多くの人が、この映画について知ることになるので、そういう意味でも健闘してもらいたいですね。