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◯作品全体
朝鮮戦争を描く戦争映画というだけでかなり珍しい作品だが、それに加えて戦闘や最前線の緊張感を描かずに軍医を中心とした部隊を描いている作品となると、この作品くらいしかないのではないか。希少な舞台設定でありながら凄惨な戦争映画ではなく、コメディ映画として構成されているのは驚いたが面白かった。ファーストカットこそヘリに乗せられた負傷兵と、「もしも、あの世にゆけたら」によって戦争の悲惨さを意識させられるが、ホークアイが登場してからはその空気感は一気になくなりエピソードが点描されていく。エピソードそれぞれはシンプルに下品だが、5km先が最前線の状況で特殊な日常を生きるというのは自身の欲求に正直でなければならないのかもしれない。戦地では貞操を守ると話していた看護婦も早い段階で破っているし、フランクとホットリップスのラジオ放送やらシャワー室のいたずらは正直すごいアホッぽいエピソードなんだけど、仕事はこなしていて(負傷者の術後の様子は一切出てこないけれど…)、従軍中だけの特別な空間だと考えると、愉快な空間でもあり、少し寂しい空間でもあるかもしれない。
こういった戦地での一時的な安息地やコミュニティは少しの日常の香りを感じさせるが、大部分の非日常さが異常な戦地に居ることを語る。最前線が舞台であれば銃撃戦なりサバイバルなりで安息地とも違う「異常」を表現できるが、本作は少し異なる語り口だった。実際に砲弾が飛んでくることもないし、銃声すら聞こえないが戦場と無関係ではなく、負傷兵がどんどんと送られてくるため、決して平和ではない。しかし描かれる時間は戦争とは違い、うるさい上官をいじめたりフットボールをやったりと平時の日常とほとんど変わらない。この一見釣り合わない二つの世界が移動外科病院だと「あり得るのかもしれない」と感じさせるところがすごい。戦争の痛々しさも、エピソードのくだらなさも、移動外科病院という軸によって両立可能であることを発見した時点で、この作品は一つ意義があるように感じる。
「日常系戦争映画」と言ってしまえばどんな設定でも作れそうに感じるけれど、「日常」と「戦争」はバランスを崩した途端、戦地という舞台設定が腐ったり、「戦争」が持つ深く悲しいイメージに作品が塗りつぶされてしまう。本作はそのバランスを一風変わった舞台で成り立たせる、「特殊な日常系戦争映画」だ。
◯カメラワークとか
・ペインレスの最後の晩餐のシーンは最後の晩餐っぽく長机を真正面から撮っていて笑った。
・エンディングの演出が面白かった。劇中で上映される映画のアナウンスが度々入るが、そのアナウンスを作品名とキャストクレジットにするとは。ちょっと『きかんしゃトーマス』っぽい。
◯その他
・ロバート・アルトマン作品、まだ全然見てないけど主人公のカリスマ感が絶妙だな。浮世離れしているわけではないし、下品だったりネガティブな一面も見せるけど、締めるところは締める、といったような。
・ホークアイが帰国を想像するシーンがあったけど、しっかり妻と子が迎えに来ているのが地味に印象に残った。やっぱお前も妻子がいながらこんなハメを外すんだ…みたいな。
・ロバート・デュヴァルを『ゴッド・ファーザー』でしか知らない人間だったから「役選んだほうが良いよ…」って思ったけどこの作品は『ゴッド・ファーザー』前だった。
・フットボールはちょっと長く感じてダレた。戦争という背景があまりにもなさすぎて、あんまり出来の良くないイカサマスポーツ映画を見せられている感じになってしまった。