「美しい、でもお腹いっぱい」愛のコリーダ pekeさんの映画レビュー(感想・評価)
美しい、でもお腹いっぱい
「阿部定事件」(若い人は知らないだろうなぁ。知らない方がいいよ)を題材にした、大島渚監督、1976年公開の超問題作。
ストーリーらしいストーリーはない。全編にわたって、ひたすらやりまくる映画だ。
そこに男女の心の機微が展開し、情念が燃える。
僕はこの作品を「美しいな」と思った。
大島監督は、制作にあたって神代辰巳監督の『四畳半襖の裏張り』に強い影響を受けたと語っているそうだが、僕は本作から、歌麿や春信などの江戸春画に見られる「美」を感じた。艶かしく、粋で、品があり、おかしみがある。
大島監督は――意識的か無意識的かは別にして――映像作品で、そういった日本のエロスの伝統を継承しているのだと思った。
そんなわけで、本作は、過激で露骨な性描写が繰り返されるにもかかわらず、決してそれが下品に堕していない。むしろ品格さえ感じさせる作品となっている。
その監督のセンスと力量には敬意を表したい。
それにしても、人間というのは、なんと滑稽な、グロテスクな、おそろしい、そして美しく、可愛らしい存在なのだろうか。
そんな、言葉で容易に表現することのできない人間という何とも不可思議な存在の本質的な一面を、この映画は我々の目の前に提示しているのだろう。
ただ、延々と繰り返される性描写には、さすがに少々げんなりした。
もうお腹いっぱい。
何だか悪い夢を見そうです。
追記
「コリーダ」って、闘牛のことなのね。今日はじめて知りました。
それから、主演の松田暎子って、劇団『天井桟敷』に所属していたのか(それも今日はじめて知りました)。
なんだか納得。
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