劇場公開日 1957年8月15日

「ストーリーテラーのワイルダー映画、ヘプバーンの本当の涙の美しさを披露する」昼下りの情事 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ストーリーテラーのワイルダー映画、ヘプバーンの本当の涙の美しさを披露する

2020年11月16日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、TV地上波

私立探偵の父と二人暮らしの清純なフランス娘アリアンヌと女性関係で世間を賑わすアメリカの富豪フラナガンの互いに惹かれあう恋の顛末を、落ち着いたタッチと洒落た台詞で楽しませてくれるロマンティック・コメディ。オードリー・ヘプバーンのまるで着せ替え人形のようなお洒落でスタイリッシュな衣装とヘヤースタイルの七変化が見所のひとつ。まさにヘプバーンの為に企画・制作された映画であり、相手役のゲイリー・クーパーはプレイボーイ役としては渋みが増している。ビリー・ワイルダー監督はケーリー・グラントを強く希望したというが、判るような気がする。初見は約50年前の日曜洋画劇場だった。淀川長治氏の解説では、クーパーはフラナガンの様な男性ではなく、寧ろ父親役のモーリス・シュヴァリエが艶福家として浮名を流したと語った記憶がある。映画のこのキャスティングにワイルダーらしい配役の妙を感じて下さいという事だと思うのだが、これは結果論のようだ。どちらにしても、晩年の深みのある演技を見せるクーパーと、人生経験豊富な貫禄を感じさせるシュヴァリエが、オードリー・ヘプバーンの為に共演した価値は充分にあると思う。
映画としては今日の感覚で観るとテンポが遅い。内容から推察すれば100分から110分くらいにまとめたらスッキリしてラストシーンがもっと引き立つように思う。しかし、それを補って余りある台詞の良さと、人物や小道具の伏線の丁寧な使い方にみる脚本の上手さがある。主題曲”魅惑のワルツ”を演奏するジプシー楽団、アリアンヌのチェロケース、アンクレット、妻の浮気調査を依頼したX氏、そしてフラナガンが宿泊するスイート・ルームの隣室の子犬。この映画最大の犠牲者はX氏ではなく、何も悪いことをしていないのに飼い主のマダムに叱られるワンちゃんだろう。開巻では、恋のパリの一場面に、ふたり乗りのスクーターで「ローマの休日」のパロディをチャッカリ差し込んでいる。台詞では、(うつぶせに寝る女性の86%は、秘めた恋をしている)が有名だ。ラストの父シャヴァスのナレーション(彼女は、ニューヨークで終身刑になるだろう)も可笑しい。父親の偽らざる本音が溢れている。
現実的な観点で冷静に見れば、この恋の物語は愁嘆場で終わるラブアフェアーもの。そんなストーリーなのに、初めて恋した女性が本当の涙を流す姿を見せられたら、どんな男性も太刀打ちできない。その一生に一度の涙の乙女を演じるオードリー・ヘプバーンの美しさがすべて。”女性の涙は、鉄砲より強い”を実践したアリアンヌの勝利と成就。

Gustav