「昼下りの情事 ('57) 」以降のビリー・ワイルダー監督作品計13本の内、「情婦 ('58)」を除いた12本は、I・A・L・ダイアモンドとの共同脚本になるが、作品ジャンルとしてはコメディであり、「サンセット大通り ('50)」の姉妹編とも呼ぶべき、ハリウッドの内幕を描いたダークなドラマは本作のみである。
グレタ・ガルボをモデルにしたような伝説的な大女優フェドーラの謎めいた突然の引退、ギリシャ沿岸の孤島での隠遁生活、その後、ある出来事がキッカケとなってハリウッドへカムバックを果たすのだが・・・
「サンセット大通り」でも主役を演じたウィリアム・ホールデンが、本作ではフェドーラを銀幕にカムバックさせようと試みる映画プロデューサーのバリー役を演じている。映画の冒頭とラストもバリーのモノローグであり、「サンセット大通り」でハリウッドの大女優の邸宅にあるプールに遺体となって浮かんだホールデンのモノローグで始まるのと似た構成だ。
ワイルダー作品ならではのフラッシュバックを巧みに取り入れた緻密な構成のドラマで、実在する映画スターや作品名も沢山登場するが、本作においては、名優ヘンリー・フォンダがアカデミー協会の会長としての本人役で、そして俳優マイケル・ヨークも本人として登場する。このあたりの楽屋オチ的なスタイルも「サンセット大通り」のセシル・B・デミル、エリッヒ・フォン・シュトロハイム、バスター・キートン等と同様な起用法であり、映画ファンの興味を多いにそそる。但し、作品の構成上やや混乱してくるのは、銀幕のスター時代のフェドーラ役を演じるマルト・ケラーが、現在のシーンでは、フェドーラの隠し子の娘アントニオーネによるフェドーラの替え玉役(マルト・ケラーによる二役)を演じている点、そして本物のフェドーラは同じ邸宅に住む彼女の取巻きの一人であるソブリャンスキー伯爵婦人(ヒルデガード・ネフ)と名乗る車椅子に座った老女であることが分かる点である。ワイルダー作品ならではのテーマである変装や偽装のシーンに満ち溢れてはいるのだが、やや説得力に欠けるところだ。ヒルデガード・ネフの演技自体は素晴らしいのだが、やはりマルト・ケラー自身が老け役メイクで現在のフェドーラ役も演じて欲しかったと思ってしまう。
孤島に住むフェドーラに会うために、ホールデンがボートで島への潜入を試みるミステリアスなシーンを盛り上げるミクロス・ローザのサウンドトラック、フェドーラが屋敷の2階の奥の方から静かに現れるシーンのアレクサンダー・トロウナーによる美術装置等、ワイルダー作品の常連スタッフも健在だ。
フェドーラに成りすました娘(マルト・ケラー)が、ヘンリー・フォンダからオスカー像(アカデミー名誉賞)を手渡され、フォンダがモーターボートで去ったのを見届けた瞬間、変装していたものすべてを投げ捨て、走って母(ヒルデガード・ネフ)の元に駆けつけ、はじめて手にしたオスカー像を渡して喜び合うシーンには、流石に胸が熱くなりました。