「勇ましさに巻き込まれたくないなぁ」博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
勇ましさに巻き込まれたくないなぁ
改めて観ると、本当によく出来たブラックコメディ。
ちょっとした権限を持った1人の行動をきっかけに始まった危機が、不幸の積み重ねで人類滅亡にまでつながってしまうという話を、実際のキューバ危機を背景にしたタイミングでこうしてつくりあげてしまう心意気がすごい。
60年以上前の作品だが、陰謀論や、核抑止のロジックは今も変わらない。というか、それが情報の偏りをあえて生み出すネットの仕組みのために更に日常化し、他国や他国民に対して、疑心暗鬼で攻撃的な態度になることが「愛国心」と言わんばかりの誤認識がそこら中に蔓延していることを思うと、薄寒くなる。
夏頃、「核兵器は安上がり」とみんなのお母さんになりたがってた人が口走っていたと記憶しているが、それを擁護していた人々もこの映画を観たらどんな感想を持つのだろう。
ただし、今作はあくまでもコメディ。テキサス出身の少佐がロデオのようにミサイルにまたがる場面とか、博士の右腕が無意識のうちにナチ式敬礼をしようとするところとかの印象的なシーンのみならず、核戦争を起こしてしまった後でも
「男1人に対してセクシーな女性10人の割合で地下で暮らせば、あっという間に問題解決」なんて提案に、みんな鼻の下を伸ばしてしまうマチズモな着地もコメディとしてお見事。
そもそも「核爆弾を執念で敵基地に着弾させようとしているのは受精のメタファー」という話もかねてから言われているが、個人の本能的な欲望と世界の命運とを重ねて描くというバタフライエフェクトのような仕掛けは、セカイ系の原型とも言えそう。
とにかく、今作を観て再確認したのは、勇ましいことを言っている人のせいで、理由もわからず巻き添えを食って死ぬのは心底嫌だなぁということ。
笑わせながら、芯を食ったところを突いてくる名作。
