「監督と俳優が異常な愛情を注いで制作した 社会風刺映画」博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか Moiさんの映画レビュー(感想・評価)
監督と俳優が異常な愛情を注いで制作した 社会風刺映画
感想
本作におけるスターリング・ヘイドン扮するリッパー、そしてピーター・セラーズの演じていたストレンジラブ、ジョージ・C・スコットのバック、アレクセイ役のピーター・ブル、更にスリム・ピケンズのコング。核兵器戦争時代におけるヒステリックで独善的且つ偏執的な狂気を其々の立場で受け止め行動する人間の姿を超個性的な一流俳優達による異常とも言えるこだわりと演技に傾注する愛情が究極の心理表現、表情など多彩な演技の体現を産み出し見事に其々の役に命が吹き込まれ独創的で画期的なキャラクター達を形創っており、さらにキューブリックの異常なまでの愛情をもって創り出す映像偏執狂とも言える映像の構成と演出が各キャラクターをデフォルメさせている事がよく解る。そんな彼らが狂気の沙汰のオンパレードを繰り広げ人間の狂気に翻弄される全人類の行く末をシュール且つブラックユーモアたっぷりに面白おかしく描いていた。
全キューブリック作品に必ず共通してあるものは物語の鍵となる、時に人間の理解を絶する程の「狂気」である。名前を変え人を介し密やかに、またある時は全面に発現され、物語の展開に素晴らしいまでの華と陰鬱さを齎らし、結果として作品全体が一段と引き締まるのだといつも感じる。
その「狂気」とはコケティッシュで魅力的な女性ドロレスであり、悪人そのもであるアレックスであり、悪霊に憑依された精神病の男ジャックであり、あるいは宇宙船内で叛乱を起こすHAL9000システム、更にはハートマン軍曹であり、看過されてしまい精神異常を来たすパイル二等兵である。そしてセックスを教義とするオクタグラムの新興宗教組織なのである。真面目な人間ほどいとも容易く狂気に変貌してしまう事があり得る事をキューブリックは知っているのである。
⭐️4.5
共感ありがとうございます!
Moiさんのおっしゃる、キューブリックの作品を貫く「狂気」というキーワードに、なるほど!と膝を打ちました。
キューブリックの作品が難解と評されるのも、そもそも常人に理解しがたい「狂気」に迫ろうとしていたのだと考えれば納得できます。
「真面目な人間ほどいとも容易く狂気に変貌してしまう」
非常に含蓄に富んだお言葉です!
真面目な人がけっこうキューブリックに拒絶反応を示すことが多いと思っていたのですが、なんとなくその理由が分かったような気がします。