「監督と俳優が異常な愛情を注いで制作した           社会風刺映画」博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか Moiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 監督と俳優が異常な愛情を注いで制作した           社会風刺映画

2025年3月12日
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鑑賞方法:VOD

感想

本作におけるスターリング・ヘイドン扮するリッパー、そしてピーター・セラーズの演じていたストレンジラヴ、ジョージ・C・スコットのバック、ピーター・ブル演じるところのアレクセイ、更にスリム・ピケンズのコング。核兵器戦争時代におけるヒステリックで独善的且つ偏執的な狂気を其々の立場で受け止め行動する人間の姿を超個性的な一流俳優達による異常とも言えるこだわりと演技に傾注する愛情が究極の心理表現、表情など多彩な演技の体現を産み出し見事に其々の役に命が吹き込まれ独創的で画期的なキャラクター達を形創っており、さらにキューブリックの異常なまでの愛情をもって創り出す映像偏執狂とも言える映像の構成と演出が各キャラクターをデフォルメさせている事がよく解る。そんな彼らが狂気の沙汰のオンパレードを繰り広げ人間の狂気に翻弄される全人類の行く末をシュール且つブラックユーモアたっぷりに面白おかしく描いていた。

全キューブリック作品に必ず共通してあるものは物語の鍵となる、時に人間の理解を絶する程の「狂気」である。名前を変え人を介し密やかに、またある時は全面に発現され、物語の展開に素晴らしいまでの華と陰鬱さを齎らし、結果として作品全体が一段と引き締まるのだといつも感じる。

その「狂気」とはコケティッシュで魅力的な女性ドロレスであり、悪人そのもであるアレックスであり、悪霊に憑依された精神病の男ジャックであり、あるいは宇宙船内で叛乱を起こすHAL9000システム、更にはハートマン軍曹であり、看過されてしまい精神異常を来たすパイル二等兵である。そしてセックスを教義とするオクタグラムの新興宗教組織なのである。真面目な人間ほどいとも容易く狂気に変貌してしまう事があり得る事をキューブリックは知っているのである。

⭐️4.5

Moi
Gustavさんのコメント
2025年9月6日

Moiさんの指摘に共感します。クルーゾー警部のナンセンスでドジな演技のピーター・セラーズも大好きですが、キューブリック監督の要望以上の成果を披露するカメレオン演技は唯一無二ですね。特にマフリー大統領では正統派の演技力を見せ付けます。ストレンジラブ博士のコメディとマフリー大統領のシリアス、そしてマンドレイク大佐のノーマル。どれもが個性的で其々に文句なしの表現力にあると思いました。

Gustav
Gustavさんのコメント
2025年9月6日

昨年93歳で亡くなられたジェームズ・アール・ジョーンズさんは、主要キャストの中で一番若く、21世紀まで長く活躍なされましたね。乗務員6名の爆撃機のハッチの向かって右側にいます。唯一の黒人少尉で点検の報告後コング少佐から航法士?と言われていました。映画終盤少佐から指示を受けるカットで確認できると思います。好青年でした。この機内シーンの演出も演技も素晴らしいですね。
役者ではやはりピーター・セラーズとジョージ・C・スコットの共演の良さが光ります。ソ連大使のピーター・ブルはどこかオーソン・ウェルズを彷彿とさせますが、スコットとのドタバタ劇を皮肉を込めて描いて、大国同士のいがみ合いを痛烈に批判しています。再見して理解が深まりました。

Gustav
盟吉津堂さんのコメント
2025年3月17日

共感ありがとうございます!

Moiさんのおっしゃる、キューブリックの作品を貫く「狂気」というキーワードに、なるほど!と膝を打ちました。

キューブリックの作品が難解と評されるのも、そもそも常人に理解しがたい「狂気」に迫ろうとしていたのだと考えれば納得できます。

「真面目な人間ほどいとも容易く狂気に変貌してしまう」
非常に含蓄に富んだお言葉です!

真面目な人がけっこうキューブリックに拒絶反応を示すことが多いと思っていたのですが、なんとなくその理由が分かったような気がします。

盟吉津堂
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