「音と映像の前衛芸術的作品」2001年宇宙の旅 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
音と映像の前衛芸術的作品
総合80点 ( ストーリー:20点|キャスト:60点|演出:85点|ビジュアル:85点|音楽:80点 )
名作だと言われて興味が出て以来何度か観ているが、それでも理解したとは言い難い作品。映画というものは物語の起承転結や展開を理解して楽しむものだと思っていた。しかしそういうことばかりが映画ではないのだということを、この作品を通して理解したようにも思う。こんな作品は抽象的すぎてどうにでも解釈できるから理解が出来るものでもないし、製作者側にも視聴者の完全な理解などおそらく最初から期待してもいないだろう。
未来的で無機質で時に神々しい映像は、美術の意匠と固定カメラを使った撮影方法によって生み出される。時々流れるクラシック音楽とクラシック風な現代の声楽がある一方、人の息遣いや機械の作動音だけで宇宙飛行士の作業を静寂に撮影していく。宇宙の神秘も感じて何か現代美術館の中にでもいったかのような錯覚も覚える。特に「ツァラトゥストラはかく語りき」の、静寂な暗闇から未来の光が差し込んでくるような音作りは絶妙にこの作品に合致している。これは哲学的で抽象的な前衛芸術作品なのだ。映像と音の組み合わせで何かを抽象的に表しそのような雰囲気を作り出すし、視聴者はその世界を構成したものを考えるのではなく感じ取る。物語はその世界を作り出すせいぜい道標に過ぎないのだろう。こんな映画ばかりになると困るが、本作品ではその斬新さと技術の高さにキューブリック監督の才能を感じた。
今回は字幕版を観たが、締め出した宇宙飛行士に侵入され立場が逆転した後で、HALの感情のない落ち着いた喋りでまず自己弁護をして言い訳をしてお願いをしてそれでも宇宙飛行士の行動を止めることが出来なくて、最後に「怖い(I'm afraid)」と言う感情を繰り返し表すのが、日本語よりも英語の科白を直に聞いた方が良いと思った。冒頭では猿が道具を使い人類になり文明を築き上げた。しかしここで機械が知能のみならず意志と感情を持ち行動する姿を目のあたりにして、人類の進化の延長に人類を脅かすかもしれない新たな生命体の誕生に、静かな恐怖と緊張があった。