劇場公開日 2018年10月19日

「覚醒するとはこういうことか」2001年宇宙の旅 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 覚醒するとはこういうことか

2022年2月6日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

知的

難しい

斬新

色・色・色。色の洪水、ただただ、圧倒される。

そして放り出されたような、難解な場面。
光だらけの部屋、なのに調度はロココ調。なんで?魂の故郷はロココ形式?
時間空間の歪み? 3次元を超えた4次元の世界?

光の洪水の前の緊迫した、そして一転してスローな音声から突然、放り込まれる世界。
解釈を試みないと、自分自身が解体していくような。
自分という枠さえも超えた世界に放り込まれそうな危機感…。

とにかく、圧倒的な情報を一方的に浴びせられ、体験させられ、ただただ、受け取るほかない。

有無を言わさない、拒否することもできない。
ただ、その場で受け取るしかない。
こちらのキャパを問うこともなく…。
何が起こっているのか…?私に、宇宙に…。

理解なんてできない。
ただ体験させられるだけ。
感覚のみの世界。

統合失調症の幻覚の世界ってこういうもの?
人の理解を超えた世界ってこういうもの?

ただただ、その世界観に圧倒される。
心が、理性が、解放され、放出されるって、こういうこと?

 そんな異次元を疑似体験させてくれた気分になれる映画です。

映像の完璧さは言うまでもなく、

クラッシック曲を使った優雅な世界との対比。
すべて計算づく?

こんな感覚の映画を、理詰めで作ってしまう監督。
どういう精神構造をしているのか。
ただただひれ伏すばかりです。

ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』の冒頭「神は死んだ」。
欧米諸国で神と言えば、キリスト教?聖書を元にして、唯一無二の教義を理解する世界。
そんな世界は終わり、新たな、自分なりのものを作りださなければいけないということか。

寝ているときにみる夢のような映画。
断片をつなぎ合わせて物語を紡いでみて自分なりの物語を作ると見えてくるものがある。
でも、時間が経って、以前とは違うアイテムに焦点を当てれば、また違う物語ができて、別のものが浮かび上がってくる。

完全癖の監督が作り上げた映像。細部にもどんな意味・仕掛けが隠されているのか。

音楽も監督のこだわり。何よりも監督の想いを雄弁に語っている選曲。
 心地よいクラッシック。
 不愉快な、羽音ととも聞こえる雑音のような合唱。
 抑揚はないけれど、宇宙飛行士よりは低い温かみのあるHALの声。

何度も思い出して夢想して何度も楽しめる映画。
監督のしかけたミステリー。
想像力を喚起させられる映画とはこういう映画をいうのだと思う。

☆ ☆ ☆

【再鑑賞・再考・追記2025/9/3】

我々の向かう先
 未来=我々が向う先を追及すると、原始に帰るということか…。

事の始まり。
解明されたかのような生命の歴史。
 けれども、どうして受精卵は命を持ち成長するのか?
 赤ん坊は、なぜ、周りの人の真似をすることを自然と始めるのか。まるでプログラミングされたかのように。
 人間は、他の動物と違い、いろいろなものを使い、作り上げて壊してを繰り返すのか。
答えがあるようで答えは出ていない。

手塚治虫氏の漫画の中でも、他の作品でも繰り返されたフィクション。
 人造人間、意思を持つコンピューターやロボット。
 今すでに製品化されているAI、ペッパーやアトム・ロビは、まるで会話をしているかのような気分にさせてくれる。けれど…。

コンピューターによる殺人。
 かえって、コンピューターの方が人を人と思っていないーただの一つの要素としてしかプログラミングされていないのだからー、人が人を殺すより、プログラミングされた命令を邪魔するバグとみなせばコンピューターの方が人を排除=抹殺しやすいのではないか。

それにもかかわらずのHALの人間臭さ。任務へのこだわり。死への恐怖。
生き残りをかけた戦い。
人と 人でないものを 分かつ要素とは何なのか?人が人であるということは?
自らの意思で動いているようなHALは人間なのか、人間ではないのか。

『博士の異常な愛情』でもそう感じたが、監督はストレートにわかりやすい表現を避け、わざと幾重にも難解にこねくり回して作っていくのが好きなように見える。トラップを仕掛け、煙に巻く。真意を巧妙に隠し、見つけられない私たちを眺めてほくそ笑んでいるような。

それなのに、それだから?
 最小限にそぎ落とされた映像・セリフ・音楽。
 空に浮かぶ雲を見ているかのような壮大かつ緩やかなテンポ。
 かと思うと、緊迫したやりとり。
 急展開の映像。
 その間や、俳優たちの息遣い、予測のつかない展開・映像・音楽から目が離せなくなる。

翻弄される。

人が問うて已まない永遠の問。
  ×
監督が映画の中に課したミステリ―
 にひきつけられて、何度も観てしまう。

地球外生命・宇宙の成り立ち・コンピューター・人間という種としての進化・我々の未来。
これらのテーマでたくさんの映画が作られてきた。
でも、どの映画とも一線を画する映画。そして多くの映画に影響を与えてきた映画。

訳が分からないのに離れられない。
超えられるわけがないのに、超えたくなる。
不思議な映画。

とみいじょん
Moiさんのコメント
2025年9月10日

色彩が次々に湧き出る映像はダグラス・トランブルがスリッドスキャンという技術で撮影した神秘的な映像になります。この映像をシネラマで観るととんでもない没入感と感覚の倒錯、またTransが発生します。更に突然現れるロココ調のホテルの一室の様な空間。時間の流れと連鎖反応の繰り返しを定点アングル映像で表現。ボーマンの覚醒と進化、最終的にはスターチャイルドの登場というデザインを監督は創造しましたね。

Moi
CBさんのコメント
2025年9月4日

もうひとつ
> 覚醒するとはこういうことか
「人類が、次の段階に進む」ということは、今後も必ずあって、それは気づかぬうちに起きるのかもしれないけど、本作のように明確な体験を得て起きるかもしれないと、肌で思わせてくれる映画ですよね。大好きです!

CB
CBさんのコメント
2025年9月4日

> キリスト教といえば、唯一無二の教義を理解する世界
> そんな世界は終わり、新たな自分なりのものを生みださなければいけないということか
上記を筆頭に、とても読み応えあるレビューでした。ナイス、レビュー!!

CB
マサシさんのコメント
2022年2月7日

偉そうに俯瞰した言い方で誠に恐縮なのですが、アーサーCクラークの原作を読むと謎が解明されると僕は思います。薄い本なので、苦労なく読めると思います。おすすめです。
この映画はキューブリックとクラークの合作と聞きます。

マサシ
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