「半世紀過ぎても色褪せず、むしろ現実を映画に引き寄せてしまう強大な万有引力を持つ不滅の名作SF」2001年宇宙の旅 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
半世紀過ぎても色褪せず、むしろ現実を映画に引き寄せてしまう強大な万有引力を持つ不滅の名作SF
米国の宇宙評議会からフロイド博士は月面のクラビウス基地を訪問するため各国の科学者が集う宇宙ステーションに到着した。ソ連の科学者達からクラビウス基地が音信不通となっていて疫病が発生したと噂が出ていることを聞かされるが何も答えられないと一蹴するフロイド博士。彼の本当の目的は基地近くの地中から発見された巨大な黒い板を調査すること。フロイド博士達調査団が現地を訪れた時、400万年前から埋められていたとされるその板は太陽光を浴びて猛烈な異音を発し始める。
午前十時の映画祭での鑑賞。都合3回挿入される長いインターミッションに象徴される通り交響楽団の演奏会を聴きに来ているかのような優雅な空気感を全身で感じられるのでスクリーンでの鑑賞は大正解。あえてナラティブな説明をごっそり取り除いたソリッドな作風は幼い頃に観た時には意味が解りませんでしたが、年齢を重ねた今は『人類の夜明け』、『木星使節』、『木星そして無限の宇宙の彼方へ』という3つの章で展開される物語にすんなりと没入出来ました。スクリーンに映し出される映像が製作時から半世紀以上の時を経てもなお全く色褪せないのは当時の水準を遥かに超えたレベルまで作り込まれているからこそ。ダグラス・トランブルを筆頭に結集した特撮映像のプロ達が想像した世界観は初めて観た時と同等の驚きを呼び覚まします。作中では星間航行を実現しているパンアメリカン航空が2001年を迎えることなく消滅してしまっているといった致し方ない現実とのギャップがある一方で、疫病の発生が噂されるクラビウス基地に乗り込むフロイド博士の姿にバッハIOC会長の姿を重ねるとたちまちリアルな話にも見えてしまう辺り趣深いものがあります。
人類の進化とは殺戮の連続であることを無言で冷徹に提示し、高次の知的生命体との隔絶と融合を鮮烈に描いた本作そのものがモノリスとなって以降無数のSF映画に劇的な影響を与えたこともまた本作が描いた世界観と地続きであり、そんなメヴィウスの円環の中に人間の叡智を見つめ続けてきたSF映画の萌芽を見ることが出来たことに感謝しかありません。
個人的には本作とセットで思い入れ深いのが、同じく日曜洋画劇場で観たダグラス・トランブル監督の『サイレント・ランニング』。こちらもスクリーンで観ることが出来る日を待ち望んでいます。