劇場公開日 2009年6月20日

「日本映画の新しい名作」劔岳 点の記 shikahikoさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5日本映画の新しい名作

2009年7月8日
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

知的

CGや空撮を一切使わず、文字通り体当たりでこのシャシンを完成させた演技陣にも撮影陣にも、惜しみない拍手を送りたいと思います。
日本を代表するカメラマンとして、数多くの仕事を手掛けて来た木村大作氏だからこそ撮ることのできた、拘りの映像は、時に息をのむほど美しく、時に過酷な自然の猛威を臨場感一杯に捕えてくれました。

この物語の一つの背景として、日本の近代登山を先駆して来たとの強烈な自負心を持つ帝国陸軍参謀本部は、創設間もない日本山岳会が未踏の剱岳を目指すことを知り、剱岳初登頂を是が非でも陸地測量部にさせねばならないと決めたことがあるのだけれど、その至上命令を下された測量技師たちは純粋で、日本地図の空白を埋めるために剱岳に三角点が必要だとの思いから、粛々と測量の仕事をこなしながら、登頂を目指します。

その過程で、何のために地図を作るのかを改めて考え、それはその地域に生きる人々のために作るのだ、との結論に達し、「人がどう評価しようとも、何をしたかではなく、何のためにそれをしたかが大事」だと悟ります。そして彼らは、初登頂に成功するのですが、剣岳山頂で彼らが目にしたものは・・・

この山頂直下で、案内人の宇治長次郎が測量手の柴崎芳太郎に、山頂への第一歩を譲ろうとしたのに対し「あなたはもう仲間なのだから、先に行ってください」と言い、他の技術者たちも力強く頷く場面には、山屋のはしくれとして、思わず涙がこぼれました。

そして、帝国陸軍の不条理さ。高級軍人の、人の命も尊厳もまるで意に介さない非情な姿(まぁ、そうでなければ戦争など遂行できませんね^^;)も、定型的ではあるけれど、良く描けていたと思います。

そして、演技陣・制作陣の職種を分けることなく、「仲間たち」として平等に並べられたエンド・タイトルにこの作品を仕上げたことへの誇り。この作品に関わったことへの誇りが、見事に表現されていたと思います。

僕は新田次郎の作品は好きで、かなり読んでいるのだけれど、この作品は読み落としていました。是非読んでみたいと思います。

shikahiko